敵基地攻撃能力

北朝鮮のミサイル発射実験の影響と効果

 北朝鮮が盛んにミサイルの発射実験をしてます。日本の軍事アナリストは「なぜこの時期に」という文系的な問いに応えなければならないので大変です。

 兵器開発は、政治的決断によって始まるのですが、予算や資源の配分と研究開発活動によって進捗が左右されるので政治的なイベントに合わせて都合よく進むものではありません。鉄道移動式ICBMのような新兵器を最初に実験するときや、新型SLBMの初発射などはミサイルの改良結果の検証は完全に開発計画に依存するでしょう。「なぜこの時期に」の問いはナンセンスですが、一方で結果的に日本の政治日程に合っていることは興味深いことです。

 北朝鮮のミサイル開発が進捗するにつれ、「敵基地攻撃能力」が取りざたされ、自民党総裁選挙では全候補が「持つべきだ」との趣旨の発言をしました。北朝鮮の発射実験は意図せずして防衛力整備に弾みをつけています。

金正日に特別防衛功労賞を、金正恩にも

 日本は、宇宙開発は平和利用に限るということで偵察衛星は長年持ってこなかったのですが1998年のテポドンの発射を契機に日本独自の情報収集衛星を打ち上げることがあっという間にまとまりました。名前は軍事目的に限らない感を出すため「情報収集」になりましたが、災害被害の掌握などにはアリバイを作る程度にしか使われていない感がありますね。

 棚ぼた式に情報収集衛星保有できることになった防衛省では「金正日に特別防衛功労賞をやらなければならない」という冗談が良く語られました。

 金正恩のミサイル実験を契機に敵基地攻撃能力を持つ武器体形を構築するという話が進めば金正恩にも特別防衛功労賞をやるという冗談が交わされるでしょう(もう交わされているかな?)。

日本の右翼の陰謀はない

 敵基地攻撃能力は徐々に整備されていく趨勢です。昔ならひと悶着起きそうな長射程のミサイルの予算もついています。では、防衛省の内部に敵基地攻撃能力を保有しようと考える勢力が昔からいて虎視眈々と機会を狙っていたのでしょうか。

 答えは簡単で、そんなことを具体化する根性がある人はいなかった、ということに尽きます。テポドンが日本列島を超えて飛んだ時でも、「発射基地攻撃」、「予防攻撃」とかの考え方はタブーでした。今でも政治レベルの流れが変わらなければ論議を呼ぶような問題を提起しようとはしないでしょうね。

 北朝鮮の冒険をチャンスととらえて右翼勢力が陰謀を具体化させようというわけではなく、政治情勢の変化に応じて権益を拡大できるんじゃないかと考えていろいろし始めたというのが本当の所じゃないでしょうか。