ソ連・ロシアにおける兵器の分類、小火器

兵器の分類に国際的な標準・基準はない 

 ベルギーの5.56mm弾を使うFN CALやFN FNCはフランス語でcarabine、つまり騎銃(カービン)ですが同じ5.56mmを使う米軍向けのFN SCARはassault rifle/アサルトライフルです*1。国内向けには騎銃(カービン)、米国向けにはアサルトライフルなんですね。米軍のM16A2小銃(ライフル)を短くした銃はM4騎銃(カービン)です。運用側が本格的な小銃(ライフル)ではなく取り回しが楽な騎銃(カービン)だと位置づけているのでしょう。
 このように銃器を含む兵器の分類には国際的に共通なものはなく、国ごとに勝手に分類しています。

ソ連・ロシアの兵器の分類を紹介する理由

 こうした中、銃器関係のライター(銃器ジャーナリスト?)やアマチュアの銃器ファンは独自に理論的に分類しようとしています。僕としては民間の研究者は結構良い仕事していると思います。例えば個人携行の自動火器を、小銃弾を使うバトルライフル(全自動で撃ったら人間が振り回される銃)と中間弾薬を使うアサルトライフル(全自動で撃っても人間が振り回せる銃)に分けるのは実態にあったうまい考え方だと思っています(アメリカの受け売りだとしても)。国(政府機関)としても民間で通用している考え方をデファクトスタンダードとして受け入れたりしています。例えば自衛隊には「小銃」という火器しかありませんが防衛省規格にはアサルト・ライフル/assault rifleの日本語訳である「突撃銃」が記載されています。
 僕は日本の兵器や軍事に興味がある人達が公的な、あるいは「防衛技術協会」のような権威ある組織の分類や用語を必ず使わなければならないとは考えていませんが、兵器の分類を研究する出発点として公的な分類を知ることは役に立つと考えています。
 日本の銃器研究者(ファン・マニア)は概ね米国のジャーナリズムで使われている考え方や用語をほぼそのまま流用、極端に言えば英語の単語をカタカナにしているだけというのが実態のようです。そういうこともあってか銃器の専門家でもない僕が言うのは口はばったいのですが、ソ連・ロシアの兵器に関する話を聞くと、「ソ連・ロシアの考え方を知っていればこうはならないだろうな」と感じることがあります。
 このシリーズでは銃器研究者(ファン・マニア、オタク?)の方々の参考としてソ連・ロシアで行われている兵器体系の考え方を明らかにしたいと思います。

 今回の記事では、けん銃から機関銃までの小火器の分類について述べます。

根拠文書

 僕としては日本の銃器ジャーナリズムの慣例に概ね従うものの、公的な文書があればそれに準拠します(公的であれば常に妥当だとは言えませんが)。僕なりの考え方もあるのですが「お前の考え方なんかに関心はない」とおっしゃる方もいらっしゃると思いますから客観的事実と僕の開設、僕の意見は分かるようにするよう努めます。

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防衛省規格 火器用語(小火器)のプリントスクリーン
ネットで検索でき、PDFファイルとしてダウンロードできます。


 この「防衛省規格 火器用語(小火器)」は用語を体系的に詳しく解説しているので勉強になります。防衛技術協会の「火器弾薬技術ハンドブック」などのちゃんとした書籍をお金を出して買うのが王道ですが、ただで手に入るものを活用しない法はありません。銃器に関心のある方々には一読を勧めます。用語の一覧の右端には「対応英語(参考)」が付されているので日本語の用語がわからなくても大丈夫です。このシリーズでは「防衛省規格」と呼びます。

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「国家間規格 小火器 用語と定義」のプリントスクリーン
ロシアの文書検索サービスで閲覧が可能です。
残念ながら英語(Smal-arms...)が書いてあるのはこのページだけです。


 ロシアの公的文書として「国家間規格 小火器 用語と定義」を使います。この記事では「GOST」と呼びます*2
 この記事ではGOSTの用語を抜粋する形でロシアにおける小火器の分類を紹介します。GOSTは産業用の規格であるためか兵器ではない空気銃とか猟銃、今は使われていない先込め銃とかも記述していますがこの記事では取り上げません。

 なお、このシリーズではロシア語のローマ字転写は表記しますがロシア文字は特に必要な場合以外表記しません。ロシア語を知らない人にとっては無意味ですし、ロシア語を知っている人ならばローマ字転写の表記を見れば元のロシア語が推測できるからです。また、ロシア語のカタカナ表記は発音を転写したものではなく、発音の再現を考慮しつつも綴りを基準にカタカナに転写したものです*3。銃器マニアになじみのある英語由来のカタカナ語も必要に応じて付記します。

小火器の分類

小火器/strelkovoye oruzhiye/ストレルコヴォエ・オルージエ/スモール・アームズ

 まず包括的な用語である「小火器、銃、銃器」です。火砲より小さな火器ですね。
 ロシア語を字義どおり訳せば、strelkovvoye/ストレルコヴォエは「strelok/ストレロク、射手、飛び道具を操る者」から派生した形容詞、oruzhiye/オルージエは「兵器」という名詞ですから「(槍やてき(擲)弾ではなく弓矢や銃などの)飛び道具を操る者の兵器」ですね。GOSTの定義は「人畜*4その他の目標を撃破し、又は信号を伝え、あるいは到達させるための飛翔体に運動の方向を与えることを目的とする銃身を備えた兵器と弾薬の総体」です。
 防衛省規格では小火器・銃器・銃は「火薬類の燃焼ガスの圧力により飛しょう(翔)体(弾丸など)を射出する装置のうち小形なもの。通常,口径20mm未満の火器をいうが,最近では,口径が大きいてき(擲)弾発射器などの個人携行火器を含めることが多い。」と説明されています。対応英訳はsmall armsです。表現は異なりますがGOSTの定義とほぼ一致します。口径20mm以上の火器を火砲に分類するところもGOSTと同様です。一方、GOSTには記載されていないてき弾発射機(器)は防衛省規格では含まれるとされていますがてき弾発射器関係の用語は最後の方に少しだけ掲載されています*5

 僕なりに丸めて表現するなら「ガスの圧力で筒から物を打ち出す兵器のうち、人が取りまわせる程度の小さいもの」つまり、「銃」ということになります。
 考えてみるとロシア語には日本語の「銃」に相当する総称がないようですね*6。だからけん銃から機関銃までを包括する「strelkovoye oruzhiye/ストレルコヴォエ・オルージエ」という人工的な用語を使わなければならないのかもしれません。日本語では「銃」で済ますことができますが一般用語的なので「小火器」というもっともらしい専門用語も使うのでしょう。

手動火器/neavtomaticheskoye strelkovoye oruzhiye/ニェアフトマチチェスコエ・ストレルコヴォエ・オルージエ

 直訳すれば「非自動火器」ですが定義に「射手の筋力で操作、装てん(填)する」と書いてあります。まさか足を使うことはないので防衛省規格の「手動火器」の定義と一致します*7。日本の銃器マニアはボルトアクションとかポンプアクションとか言って、総称の「手動式」に相当するカタカナ語は使わないようですがどうでしょう。

自動火器/avtomaticheskoye strellkovoye oruzhiye/アフトマチチェスコエ・ストレルコヴォエ・オルージエ/オートマティック・ファイアアームズ

 全自動射撃(引き金を引いている間、弾が連続して発射される射撃)ができる火器です。防衛省規格では自動火器は「自動式の小火器」(同語反復?)と説明されているので防衛省規格と一致します。
 ただし、日本語の自動式けん銃は半自動式(引き金を引くごとに1発ずつしか射撃できない)なのに自動式と呼んでいるので変です。慣例として弾倉で給弾するけん銃を「自動けん銃」とか「自動式けん銃」と呼んでいるからでしょうか。英語のautomatic pistolは全自動式のけん銃/machine pistol/マシンピストルと半自動式/semi-automatic ppistol/セミオートマティック・ピストルの両方を指すようです。

半自動火器(自動装てん火器)/samozaryadnoye strelkovoye oruzhiye/サモザリャドノエ・ストレルコヴォエ・オルージエ/セミオートマティック・ファイアアームズ、セルフローディング・ファイアアームズ

 直訳は自動(samo-)装てん(zaryadnoye)です。定義が防衛省規格の「半自動式」の火器に相当するので半自動火器と訳すことができます。self-loading/セルフ・ローディングという用語は銃器マニアで通用しているので自動装てん火器でも通じるでしょう。
 僕としては「半自動」は「全自動」に対する言葉のような気がするので、装てんだけを自動化した火器なら「自動装てん火器」でも良いと思います。

小口径火器/malokalibernoye strelkovoye oruzhiye/マロカリベルノエ・ストレルコヴォエ・オルージエ

 小さい(mal-)口径の(kalibernoye)小火器であって口径6.5mm以下です。日本語としてはあり得ますが防衛省規格ではこういう区分はしていません。

通常口径火器/strelkovoye oruzhiye normal'nogo kalibra/ストレルコヴォエ・オルージエ・ノルマリノヴォ・カリーブラ

 通常口径/normal'nyy kalibr/ノルマリヌイ・カリーブル(6.5mmより大、9mm以下)の火器です。こちらも日本語としてはあり得ますが防衛省規格ではこういう区分はしていません。「中口径」という言葉があるのに「通常口径」を使うのは、6.5mm~9mmが「通常」の小銃弾の口径だからでしょうか。

大口径火器/krupnokalibernoye strelkovoye oruzhiye /クルプノカリベルノエ・ストレルコヴォエ・オルージエ

 大(krupno-)口径(kaibernoye)の小火器で、9mmより大きい口径です。こちらも日本語としてはあり得ますが防衛省規格ではこういう区分はしていません。小火器の定義に従えば口径は20mmまでです。

 日本語で銃に分類される火器が6.5mmと9mmを境に3つに区分されているわけです。6.5mmより口径が小さければ競技用の銃、6.5mmから9mmまでなら小銃用、それ以上は小銃弾を超える威力の弾薬用の火器という考え方でしょうか。それでも同じ自動小銃(突撃銃、アサルトライフル)なのに7.62mmのAKMまでが通常口径、5.45mmのAK-74からが小口径になるのは変ですね。

長銃身火器/dlinnostvol'noye strelkovoye oruzhiye/ドリンノストヴォリノエ・ストレルコヴォエ・オルージエ

 長い(dllinno-)銃身の(stvol'noye)小火器で、銃身長が300mmより大、全長が600mmより大です。これも日本語としてはあり得ますが防衛省規格ではこういう区分はしていません。ロシアの法体系での区分を反映しているのでしょうか。

短銃身火器/korotkostvol'noye strelkovoye oruzhiye/コロトコストヴォリノエ・ストレルコヴォエ・オルージエ

 短い(korotko-)銃身の(stvo'noye)火器で、銃身長が300mmより小、全長が600mmより小です。こちらも日本語としてはあり得ますが防衛省規格ではこういう区分はしていません。

単発銃(単発式火器)/odnozaryadnoye strelkovoye oruzhiye/オドノザリャドノエ・ストレルコヴォエ・オルージエ

 1発(odno-)装てん(填)(zaryadnoye)の小火器。GOSTの定義では「単銃身の銃であって装弾機構がなく、弾薬が1発装てんされる火器」です。防衛省規格には「単発式」という用語があります。日本の自衛隊保有する火器としては信号けん銃がこれに当たるでしょう。

連発銃(連発式火器)/mnogozaryadnoye strelkovoye oruzhiye/ムノゴザリャドノエ・ストレルコヴォエ・オルージエ

 複数弾(mnogo-)装てん(填)(zaryadnoye)の小火器。GOSTでは装弾機構があるか1発より多い弾薬の銃とされていますから水平2連・上下2連の装弾機構がない猟銃もこれに区分されるでしょう。防衛省規格には「連発式」という用語がありますが「弾倉を有し」とあるので防衛省規格的には水平2連・垂直2連の猟銃は連発式の銃にはならないことになります。防衛省規格ですから防衛省保有する可能性のない火器の記述はないのでしょう。産業用の規格であるためか、GOSTは猟銃・散弾銃・空気銃・垂直2連銃・水平2連銃も記述しています。

自動式けん銃(けん銃)/pistolet/ピストレート/ ピストル

 GOSTの定義では「射撃に際して片手で保持・操作する構造の短銃身火器」となっていて、回転式けん銃も含む総称として扱われています。
 とはいうもののロシアでは一般に弾倉式のけん銃と回転式けん銃は別物と考えられています。ロシアで回転式けん銃を差して「ピストレート」と言ったら素人だとバカにされるでしょう。

回転式けん(拳)銃/revol'ver/レヴォリヴェル/リボルバー

 GOSTでは「弾薬を込める回転部又は複数の銃身から成る回転部を持つ(広義の)ピストレート」と定義されています。

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ロシア語版Wikipediaの「Бундельревольвер Мариетта」の記事に掲載された写真。
いわゆるペパーボックスという銃の一種で、銃身をレンコン状というか蜂の巣状に束ねた部分が回転する

博物館でしか見られないようなこんな銃もレヴォリヴェルなんですね。英語ではこれはrevolverに分類されるのでしょうか。それともmulti-barrel firearmなのでしょうか。

小銃/vintovka/ヴィントフカ/ライフル

 GOSTの定義は「射撃の際に銃床を肩で支え、両手で保持・操作する構造の施条銃」です。ネジ(vint)状の刻み、すなわち腔線がある(ライフリングがある)銃ですが腔線がある銃(施錠銃)であれば全てヴィントフカと呼ばれるわけではありません。僕としては西側で言うライフルより狭いカテゴリーになると考えます。
 西側で対戦車ライフルと呼ばれるデクチャリョフ対戦車銃PTRDがヴィントフカとは呼ばれないのは二脚架で地面に委託しなければ射撃できないからなのでしょう。英語でも腔線がある(ライフリングがある)銃(施条銃)だからと言ってけん銃や騎銃(カービン)をライフルとは呼びませんよね。現代ロシア軍が保有するヴィントフカはSVD狙撃銃だけではないでしょうか。

狙撃銃/snayperskaya vintovka/スナイペルスカヤ・ヴィントフカ/スナイパー・ライフル

 snayperskaya/スナイペルスカヤは見てわかるとおり英語のsniper由来です。GOSTの定義は「高い精度の射撃が可能な構造の戦闘用小銃」です。防衛省規格では「狙撃用眼鏡を装着して使用する」とされています。この辺から具体的な兵器の名を例示していきましょう。

ドラグノフ狙撃銃、SVD/snayperskaya vintovka Dragunova/スナイペルスカヤ・ヴィントフカ・ドラグノヴァ、エスヴェーデー

 ドラグノヴァ/Dragunovaは生格(所有格)で主格はドラグノフ/Dragunovです。

ドラグノフ狙撃中折り畳み銃床型、SVDS/エスヴェーデーエス

 最後の「S」は「折り畳む銃床付き/so skladyvayushchimsya prikladom/ソ・スクラドゥイヴァユシチムシャ・プリクラードム」(北海道弁で「折り畳まさる銃床付き」と書きたい)、「折り畳み式銃床付き/so skladnym prikladom/ソ・スクラドヌイム・プリクラードム」又は「折り畳まれる銃床付き/so skladyvayemym prikladom/ソ・スクラドゥイヴァエムイム・プリクラードム」という意味です。教範レベルで「折り畳む」、「折り畳み式」、「折り畳まれる」の3者が使われていますが実態は同じです。日本の銃器マニア的には「フォールディングストック付き」です。
 SVDSは空てい部隊用ですが、狙撃銃のように精度が要求される銃の銃床が折り畳み式で良いのか疑問です。

騎銃/karabin/カラビン/カービン

 GOSTの定義では「銃身を縮め、軽量化した小銃」ですが、現代ロシアではけん銃弾と小銃弾の中間の威力の中間弾薬/promezhutochnyy patron/プロメジュートチヌイ・パトロン/intermediate cartridgeを使う銃が騎銃と考えられています。

シモノフ自動装てん騎銃、SKS/samozaryadnyy karabin Simonova/エスカーエス

 この銃はAKに置き換えられましたがクレムリンで儀じょう(仗)を行う第154プレオブラジェンスキー独立警備連隊/154-y otdel'nyy komendantskiy Preobrazhenskiy polkが装備しています。アメリカで儀仗部隊や無名兵士の墓の衛兵がM14ライフルを使っているのと同じですね。報道・広報画像を見る限り同連隊はAK-74も装備しているようですがSKSでの戦闘訓練や射撃訓練もしていました(数年前に動画を見ました。)。ロシア軍が保有している騎銃はこれだけでしょうがまだ現役で使われているわけです。

自動小銃(自動銃)/avtomat/アフトマート/アサルトライフル

 GOSTの定義では「自動式の騎銃」としか書かれていません。ロシア人的にはアフトマートは小銃(ヴィントフカ)とは別物と考えられています。ロシア語のавтомат/ avtomatは英語のautomatやautomatonと同様、本来自動機械の意味であって自動販売機やATMの意味もあります。僕としては、引き金を引いていれば弾が自動的に出る銃だからこう読んだのではないかと思います。
 銃器研究者の間には小銃弾を使うバトルライフルに対して中間弾薬を使う自動火器がアサルトライフルだとする考え方があります。この観点からアフトマートの概念は短機関銃を含むことがあるにしてもアサルトライフルにほぼ一致していると思います*8アサルトライフルというカタカナ語を避けたいというのなら(僕は避けたい)、「突撃銃」だとオタク臭い、「自動騎銃」じゃなじみがない、「自動銃」は自衛隊の訓練資料で使われていますが馴染みがないしブローニングのBARみたいな感じがする。ということで「自動小銃」を使うほかないと思います。
 英語のautomatic rifleの直訳としての自動小銃/avtomaticheskaya vintovka/アフトマチチェスカヤ・ヴィントフカ、ドイツ語のSturmgewehr又は英語のassault rifleの直訳として突撃小銃/shturmovaya vintovka/シトゥルモヴァヤ・ヴィントフカという言葉もあってロシアの銃器マニアが使っていますが、ソ連・ロシアにはそう呼ばれる兵器はありません。アメリカのM16A2ライフルやM4カービンもアフトマートと呼びます。

AKS74M/AKS cem'desyat chetyre M/アーカーエスセミデシャト・チェトゥイレ・エム

 3番目の文字「S」はSVDSの最後の「S」と同じ折り畳み銃床付き(フォールディングストック付き)の意味。最後の「M」はmodernizirovannyy/モデルニジロヴァンヌイ、「近代化された」(modernised)の意味。

AKS74U/AKS cem'desyat chetyre U/アーカーエスセミデシャト・チェトゥイレ・ウー

 最後の「U」はukorochennyy/ウコロチェンヌイであって「短くされた」の意味。短くなってもアフトマートのままです。
 アメリカ人や日本の銃器マニアはこれをカービンとかショートカービン(この二つはどう違うんでしょ?)と呼んでいます。でも、元の長い方のAKS-74も自動式カービンですからカービンが短くなってカービンになったという変なことになります。

短機関銃/pistolet-pulemet/ピストレート・プレミョート/サブマシンガンSMG

 直訳すればけん銃機関銃です。「機関銃のように弾が出るけん銃」ということでしょうか。普通のロシア人は軍人を含めピストレート・プレミョートのような専門用語はあまり使わずavtomat PPSh/アフトマート・ペーペーシャー(PPSh)という具合にアフトマートと呼んでいます。現代ロシア軍の現役銃としてはないと思います。

機関銃/pulemet/プレミョート/マシンガン、MG

 字義から言えば、弾(pulya)を投げる(metat')ものです。英語で直せば「bullet thrower」でしょうか。GOSTの定義で「射撃に際して支えを利用することを想定した構造で間断のない長時間の射撃を行うための自動火器」とされているので、人間が手で振り回せるような銃は機関銃ではないということです。

軽機関銃(肩撃ち機関銃)/ruchnoy pulemet/ルチノイ・プレミョート/ライト・マシンガン、LMG

 GOSTの定義では「基本的な射撃姿勢が二脚架に委託し銃床を肩で支える要領であることを想定した構造の機関銃」とされています。防衛省規格の「小銃と同一の弾薬を用いる比較的軽量の機関銃」よりも定義がはっきりしています。ルチノイ/ruchnoyは、英語のarmとhandを包含する意味のルカ/ruka*9から派生した形容詞です。この場合のルチノイ/ruchnoyは肩撃ちと訳すのが適訳ですから肩撃ち機関銃としたいところですし、実態に合っていると思います。もっとも、日本で軽機関銃、米国でlight machine gunと呼ぶ火器はロシアのルチノイ・プレミョート/ruchnoy pulemetと一致するので新しい日本語を作るのではなく軽機関銃と訳すのが適切でしょう。
 ちなみに日本には軽機関銃としても運用できる機関銃はあっても純然たる軽機関銃はありません。

カラシニコフ軽機関銃、RPK/ruchnoy pulemet Kalashnikova/ルチノイ・プレミョート・カラシニコヴァ

 基本的にAKMの銃身を長くして2脚を付けた銃です(ほかにも変えたところがありますけど)。デクチャリョフ軽機関銃RPDの後継という位置づけです。銃器マニアは分隊支援火器(Squad Automatic Weapon, SAW)と位置付けています。ロシアにそういう位置づけがあるかはわかりませんが分隊の火力を増大させるための火器であることは確かです。

重機関銃/stankovyy pulemet/スタンコヴイ・プレミョート/ヘビーマシンガン、HMG

 架台/stanok/スタノクに据えて運用する機関銃だから架台機関銃あたりが直訳であり適訳です*10。小銃弾を使う機関銃についてこの用語を使うようであり、ロシアの(たいていの近代国家の)現有装備でこれに区分される銃はなさそうです。昔のマキシム機関銃、米軍のM1917、旧軍の92式重機関銃のような銃です。僕的には車両から降ろした74式車載機関を三脚架に据えたらロシアの定義どおりの重機関銃になると思います。

汎用機関銃/yedinyy pulemet/エジーヌイ・プレミョート/ジェネラルパーパスマシンガン、GPMG

 直訳は一本化(yedinyy)機関銃。軽機関銃としても重機関銃(架台機関銃)としても運用できる機関銃であり、汎用機関銃(general-purpose machine gun)と概念が一致します。装備の名前としては単に機関銃(pulemet)と呼ばれます。列国が現在装備している小銃弾を使う機関銃はたいていこれじゃないでしょうか。

カラシニコフ機関銃、PK/pulemet Kalashnikova/プレミョート・カラシコヴァ

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ロシア語版WikipediaのПулемёт Калашниковаの記事の画像
2脚架で支えられている

 この銃は二脚架で支えて射撃することも、三脚架(stanok-trenoga)に据えて射撃することももできます。銃の名称には一本化(yedinyy)という言葉は含まれていません。これを改修すると車載機関銃にもなります。

車載機関銃(戦車機関銃)/tankovyy pulemet/タンコヴイ・プレミョート/

 tankovyy/タンコヴイは「戦車(tank)の」を意味する形容詞。GOSTの定義では「戦車への据え付けと運用の要求を考慮した構造の機関銃」ですから直訳は「戦車機関銃」か「戦車用機関銃」でしょうが、戦車に限らず戦闘車両にも据え付けることができます。

カラシニコフ車載機関銃、PKT/pulemet Kalashnikova tankovyy/プレミョート・カラシニコヴァ・タンコヴイ、ペーカーテー

 カラシニコフ機関銃PKの銃床を取り外す、銃身を肉厚にするなどの改修をしたバージョン。62式機関銃と74式車載機関銃の関係に似ていますが74式車載機関銃は62式よりかなり重くなっています。

重機関銃(大口径機関銃)/krupnokalibernoye pulemet/クルプノカリベルヌイ・プレミョート/

 GOSTにはこの項目はありませんが具体的な兵器を注す言葉として一般に使われています。大口径火器の定義に従えば小銃弾より口径の大きな(9mmを超える口径の)弾薬を使う機関銃ということになります。防衛省規格では重機関銃を「比較的質量が大きく,小銃の口径よりも大きい弾薬を使用する機関銃」と説明していますから防衛省規格でいう重機関銃の説明に当てはまります。一方、小銃弾と同じ口径の弾薬を使う92式重機関銃は小銃の口径と同じ弾薬を使っていたので今の防衛省規格でいう重機関銃には含まれないでしょう。
 言い換えればロシアでは日本やアメリカが重機関銃と呼んでいる銃を、小銃弾を使うもの(stankovyy pulemet)と小銃弾より大口径の弾を使うもの(krupnokaliernyy pulemet)に分けているということです。ロシア・日本を含む近代国家の現用兵器にstankovyy pulemetはないので実態として大口径機関銃イコール重機関銃です。米軍の12.7mm重機関銃M2もこの分類です。

大口径機関銃NSV/krupnokalibernyy pulemet NSV/クルプノカリベルヌイ・プレミョート・エヌエスヴェー/NSV重機関銃

 12.7mmの重機関銃(大口径機関銃)です。NSVはNikitin/ニキーチン、Sokolov/ソコロフ、Volkov/ヴォルコフという3人の設計者の姓です。

ヴラジミロフ大口径機関銃KPV/krupnokalibernyy pulemet Vladimirova/クルプノカリベルヌイ・プレミョート・ヴラジミロヴァ、カーぺーヴェー/KPV重機関銃

 14.5mmの重機関銃(大口径機関銃)です。地上に置く機関銃としてより高射機関銃システム用として使われている銃です。
 ちなみに高射機関銃システムZPU-1、2、4のZPUはZenitnaya Pulemetnaya Ustanovka/ゼニトナヤ・プレミョートナヤ・ウスタノフカ/高射機関銃装置の頭字語です。artilleriyskaya ustanovka/アルチレリースカヤ・ウスタノフカ/砲術装置が火砲と砲架その他の付属装備をまとめた表現であり、実態として日本語で言う火砲であることを考えると、プレミョートナヤ・ウスタノフカをまとめて機関銃と訳し、全体として「高射機関銃」又は4丁まとまっていることを考えて「高射機関銃システム」くらいに訳しても良いでしょう。
 ロシアのネット民でKPVを「世界最強の機関銃」と自慢している者がいます。まあ、機関銃として最強であるのは正しいでしょうが最強の機関銃より強力な兵器として口径20mmの機関砲があるのですからそういう自慢は無意味でもあります。

ソ連・ロシアにおける小火器の分類の注目点

 注目点と言っても日本の考え方との違いということになります。大きなところは、
〇 銃器研究者による最近の定義によるアサルトライフルの考え方に気味が悪いほど一致するアフトマート(avtomat)という分類がある。
〇 日本で重機関銃に分類される機関銃が小銃弾を使う重機関銃(直訳:架台機関銃/ stankovyy pulemet/スタンコヴイ・プレミョート)と9mm以上20mm未満の大口径の弾薬を使う重機関銃(直訳:大口径機関銃/ krupnokalibernyy pulemet/クルプノカリベルヌイ・プレミョート)の二つの分類に分けられている。

という2点でしょうか。

 

 小火器の分類はこれで一区切りです。今後は個々の小火器に移るか、小火器の上の火砲の分類に進むか、ロシア軍事の別の分野で記事を書くかのいずれかになります。ロシア語についての記事も考えています。

 

*1:IPA表記だと[əsəsˈɔːlt rάɪfl]のようですからアソートライフルと書いた方がいいんじゃないですかね?

*2:ГОСТ/GOSTはГОсударственный СТандарт/ GOsudarstvennyy STandart/国家規格又は国家標準規格です。ソ連崩壊後、ロシア以外の旧ソ連構成国の一部でも使われるため「Межгосударственный стандарт/ Mezhgosudrstvennyy standart/国家間規格」に名前が変わっていますが略語はそのままです。いろんな事情があるのでしょう。日本の農林水産省のサイトでは「国家標準規格(GOST)」になっています。

*3:カタカナ転写についての僕の考え方は僕の別の記事「ロシアの軍事用語のカタカナ表記、アブトマット?、アフトマート?、アフタマート?」をご覧ください。

*4:直訳すれば「生命のある目標」

*5:防衛省規格でてき弾発射機(器)が「最近」小火器(銃)に含まれたのは、96式40mm自動てき弾銃が「銃」と名付けられたからかもしれません。96式40mm自動てき弾銃については同種の兵器である米軍のMk 19やソ連のAGS-17がてき弾発射器(機)と呼ばれていたのに口径が40mmもあって銃なのはおかしいと自衛隊の武器科の人が言っていたのですが、当時のPKOからみの政治的配慮から「発射器(機)」ではなく「銃」としたのかもしれません。これは僕の憶測ですけれど

*6:ロシア語を知っている人からは、ружьё/ ruzh'eがあるじゃないかと言われるかもしれません。確かに古くからある言葉のようですがそれだけに俗語っぽくて日本語としては「鉄砲」のような感じでしょうか。受けるイメージは猟銃や散弾銃です。

*7:カタカナ表記で「не/ne」を「ネ」と転写するか「ニェ」と転写するか迷いました。英語でnoを意味する「нет/ニェット」というロシア語が知られていることを考えて「ニェ」にすることにしました

*8:Wikipediaの「アサルトライフル」の記事の「アフタマート」の項を見てください。ここの説明より詳しい解説が見られます。カタカナ表記の考え方の違いから僕は「アフトマート」と書きますけど。

*9:日本語でも厳密な文脈でなければ「て」といったら手と腕を含みますね。ロシア語では脚と足も一緒くたにして「noga」と言いますから日本語に似ています。

*10:防衛省規格では機関銃を据える台につき、主として車や艦艇に据え付けるための架台を銃架と呼んでいます(対空銃架は地面に置くこともある)。銃架機関銃では車載機関銃と紛らわしいし、地面に置く機関銃用の架台が全て三脚架とは言えないので三脚架機関銃と訳すことにも抵抗があります。