ソ連・ロシアの銃の区分「アフトマート」

AKシリーズは実はカービン

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ロシアの教育者用ポータル(教材を紹介している)に掲載されたスライド
「生活安全の基礎」の科目の教材(10年生用)


  有名なロシア(ソ連)のAK-47、AKM、AK-74、AK-74Mとそれから派生した銃は一般には自動小銃と呼ばれ、ガンマニアは「アサルトライフル」と呼んでいます。僕はAKB48という女性アイドルグループを知った時、AK-47のもじりかなと思いましたがそうではなさそうですね。

 ロシアではこのたぐいの銃をавтомат/avtomatと呼んでいます。日本でも銃器ジャーナリストや熱心なガンマニアはこの言葉を知っています。日本の権威ある銃器ジャーナリストはアメリカの情報をネタにしていますから、英語式のローマ字転写の「avtomat」に引かれて「アブトマット」と書いています。したがって日本のガンマニアの間では「アブトマット」という表記が主流のようです。とはいうもののロシア語が分かる人は「アブトマット」に違和感があると思います。僕はロシア語の綴りを重視して「アフトマート」とカナに転写することにします*1

 本来の意味は英語のautomatやautomatonと同様、自動で動く仕掛けであり、自動販売機、ATM、自動工作機械を意味します。軍事用語としては自動装てん装置もавтомат/avtomatです。研究社の露和辞典では4番目に「自動小銃」という訳語が出現します。

 自動的に作動する、つまり引き金を引けば機械任せで全自動射撃ができる銃だからアフトマートと呼ぶのでしょう。

 GOSTでは、アフトマートは自動式の騎銃(カービン)/автоматический карабинと定義されています。小銃(ライフル)/винтовкаじゃなくて騎銃(カービン)/карабин/karabin/英訳: carbineなんですね。

小銃(ライフル)と騎銃(カービン)の区分は国によって違う

 日本では一般に肩撃ち式の銃で長いのを小銃(ライフル)、短いのを騎銃(カービン)と呼びます。防衛省規格でもそうなっています。アメリカでもライフルであったM16A2が短くなるとM4カービンになりました。アメリカは外国の武器であってもこの考え方を当てはめ、ソ連(ロシア)のAKS-74はライフル、その銃身を短縮したAKS-74Uをカービンと呼んでいます。本家のロシアでは両方ともアフトマートのままです。逆にソ連(ロシア)が騎銃(カービン)と位置付けているシモノフ自動装てん騎銃СКС/SKS(Самозарядный Карабин Симонова/Samozaryadnyy Karabin Simonova/Simonov selfloading carbine)はライフルと考えられることが多いようです。

 ロシアのGOSTでは騎銃(カービン)/карабинは「銃身を短くした軽量化された小銃/винтовка」と定義され、小銃(ライフル)/винтовкаは「射撃の際に銃床を肩で支え両手で保持し操作する構造の施条式の小火器」と定義されていて米国と同様のようですが、現代のロシアで騎銃(カービン)/карабинとなる要件(?)は小銃弾とけん銃弾の中間的な威力を持つ弾薬(промежуточный патрон/promezhutochnyy patron/英語: intermediate cartridge、中間弾薬)を使うことです。SKSは騎銃(カービン)、それと同じ弾薬を使い全自動射撃が可能なアフトマートは自動騎銃です。Wikipediaのロシア語版ではM16シリーズのライフルもM4カービンもアフトマート/автомат/avtomatになっていて区別していません。

 ロシアだけでなくベルギーも5.56mm 弾を使うFN CALやFN FNCはcarabineですね。米軍向けのFN SCARはassault rifleですけど。

AKシリーズをどう呼べばよいのか

 日本の銃器ジャーナリストや銃器マニアは全自動射撃が可能な肩撃ち銃について、けん銃弾を使う銃をサブマシンガン、中間弾薬を使う銃をアサルトライフル又はアサルトカービン、小銃弾を使う銃をバトルライフルに区分する傾向があります。アメリカでもまだ公式的な定義ではないのかもしれませんがアメリカで行われている区分をそのまま使っているのでしょう。使う弾薬により、けん銃弾を使うサブマシンガン、中間弾薬を使うアサルトライフル、小銃弾を使うバトルライフルと区分することは妥当だと思います。

 AKシリーズをロシア語どりにアフトマートと呼ぶわけにはいかず、GOSTの定義に従って自動騎銃と訳してもピンと来ません。ということで最近の定義のアサルトライフル(中間弾薬を使用する全自動・半自動両機能を有する肩撃ち銃)を使えばよいでしょう。アサルトライフルと呼ぶのがオタク臭がしていやなら(僕はいやです)「突撃銃」か「自動小銃」と呼ぶのが良いでしょう。防衛省規格はアサルトライフルとバトルライフルの区分はしていませんから防衛省規格的にはAKシリーズは「自動小銃」であり「突撃銃」です*2

短機関銃サブマシンガン)との関係

 露英辞典でавтоматの項の何番目かにsubmachine gunが出てきます。ロシア(ソ連)では銃としてのавтоматの英訳はほぼsubmachine gunで定着しています。ロシアの通信社のニュースの英語版ではアサルトライフルと考えられている銃(アフトマート)がsubmachine gunと訳されます。ロシア人的には第2次世界大戦で使われていたППШ/PPShのような短機関銃/submachine gunもアフトマートと呼んでいましたから問題ないのでしょう。厳密には短機関銃サブマシンガン)を意味するпистолет-пулемёт/pistolet-pulemet、直訳すれば「けん銃機関銃」という用語がありますが一般人も軍人もアフトマートと呼んでいますし、GOSTでは「けん銃弾を使用するアフトマート」と定義されています。威力が弱いアフトマートが短機関銃、威力を高めた短機関銃がアフトマートという感覚のようです。

 僕はアフトマートは小銃よりも短機関銃寄りの火器として扱われると考えています。東ドイツライセンス生産されたAK-47もMPi-K、Maschinenpistole K、つまり短機関銃サブマシンガン)と呼ばれていました。

 もっとも冷戦後に東ドイツが開発した輸出を狙った西側の5.56mm弾を使えるカラシニコフ系統の銃はSTG/Sturmgewer(突撃銃)と呼ばれました。冷戦終結社会主義的ポリティカルコレクトネスが解けて第二次世界大戦中のSturmgewehrという言葉が使えるようになったのでしょうか。東ドイツにとってもSturmgewehrの言い換え(同義語?)はMaschinenpistole(サブマシンガン)だったのかもしれません。

*1:хорошо/khoroshoをハラショー、спасибо/spasiboをスパシーバと書くように発音の再現を重視すれば「アフタマート」になりますし、そう書いている人もいます。

*2:防衛省規格では突撃銃は「突撃射撃に適している銃。全自動と半自動の機能及び多数弾を給弾できる弾倉を有する」と記されているので、防衛省的には小銃弾を使用する自動小銃であっても突撃射撃に適していれば突撃銃になると考えられます。つまりbattle rifleに対するassault rifleとは微妙に異なります。