ロシアの軍事用語のカタカナ表記、アブトマット?、アフトマート?、アフタマート?

 このブログではロシアの軍事用語(ばかりとは限らない)のカタカナ表記について述べます。

おかしなロシア語表記が権威を持っている

 銃器マニア界隈ではロシアの銃関係の言葉がカタカナで表記されることがありますがロシア語を習った者としては「こうじゃないよね」という感じがするものを多く目にします。違和感があるものでよく目にする例を英語式(アメリカ式)のローマ字転写も付けて挙げておきます。 
① アブトマット・カラシニコバ:автомат Калашникова/avtomat Kalashnikova
② フェドロフ自動小銃、アブトマット・フェドロバ:автомат Фёдорова/ avtomat Fedorova
③ デグチャレフ:Дегтярёв/ Degtyarev
④ プレメット:пулемёт/pulemet、機関銃をロシア語で読むとこうなるそうです。

 最近でこそ、ロシアのAKを「アフタマート」とロシア語の発音に近いカタカナ表記で書く人が出てきましたが、銃器マニアでは「アブトマット」の方が主流です。なぜこのような表記になるかといえば、権威ある銃器関係のライターが英語式のローマ字転写をそのままカタカナにしているからなのは明らかです*1。これがさらに進行するとローマ字の読み方まで英語式になることがあります。PPSh短機関銃の設計者のShpaginを「シュパジン」と書いてあるのを見たことがあります*2。「ネスレ/Nesslé」が昔、英語式の「ネッスル」だったのと同じですね。英語が途中に入ると変なことが起きます

 銃器以外の分野ではロシア語から直接日本語にしますからそれほど変なことは起こりません。ソ連の最初で最後の大統領であるГорбачёв/Gorbachevはゴーバチェフにならずゴルバチョフになっています*3
 では、ロシア語が分かる人にカタカナで書いてもらえばおかしな表記にならずに済むのでしょうか。それがそうでもありません。

ロシア語が分かる人でも表記はバラバラ

 ロシア語のカタカナ表記の揺れの例を挙げてみましょう。エカテリーナ二世は「女帝エカテリーナ」という少女漫画にもなっているので「エカテリーナ」という表記で定着していますが、世界史の参考書などでは「原語により忠実な」「エカチェリーナ」、「イェチェリーナ」という表記もあります。ロシア語に詳しい人が独自にいろいろな表記をしているわけです。銃器関係ではどうでしょうか
 Wikipediaの記事ではロシア語が分かる人が執筆陣に加わっているとロシア語を発音に近くなるように工夫してカタカナで表記することがあります。でもその表記ぶりはカオスです。

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Wikipediaの「AK-47」の記事のプリントスクリーン
カタカナ表記が同じ記事でバラバラ

 Wikipediaの「AK-47」の記事では1行目は銃器ジャーナリスト式の「アブトマットカラシニコバ」ですが、ずっとスクロールして「AKM」の項に行くと「アフトマート・カラーシュニコヴァ」になります。

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日本語版Wikipediaの「PK」の記事のプリントスクリーン

 PK(機関銃)の記事でКалашников/ Kalashnikovの生格(所有格)Калашникова/ Kalashnikovaの表記を見てみます。ご覧のとおり「カラーヴァ」になっています。AKMでの「カラーシュヴァ」と微妙に違います。主格にすれば「カラーシュフ」と「カラーフ」ですね。両方ともあり得る表記ですが好みというか方針の違いが出ています*4。「ギョエテとは俺のことかとゲーテ言い」という現象が生じています。
 автомат/ avtomatはどうでしょう。AK-47の一行目の「アブトマット」は英語読みだから論外として、AK-47の記事のAKMの説明では「アフトマート」でした。ここでWikipediaの「アサルトライフル」という記事を見てみましょう。

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Wikipediaの「アサルト・ライフル」の記事のプリントスクリーン
ロシア語が分かり軍事にも詳しいという稀有の人材の記述。脱帽です。頑張ってください。

 この「アサルトライフル」の記事をスクロールしていくと「アフマート」の項目が出てきます。「アフマート」ではありませんね。

 脱線しますがこの部分を書いた人はロシア語の一次資料(国家間規格、GOST等)を始め、多くのロシア語の資料に当たって正確に訳しています。この人が書いていることは信頼できます。僕が投稿した「ソ連・ロシアにおける兵器の分類、小火器」でもGOSTを引用していますが、僕の場合はめんどくさくて飛ばし飛ばし訳しています。僕の記事の自動小銃の部分よりもこちらの「アフタマート」の項目を参照した方がためになります。銃器マニアの間で「アブトマット」ではなく「アフタマート」と書く人が出てきたのはこの人の功績でしょうか。
 ただし、カタカナ転写に対する考え方は僕と異なります。僕なら「アフマート」と表記します。同じ人が書いたのかどうかはわかりませんが「アフタマート・フョードロファ」も僕なら「アフマート・フョードロァ」にします。

表記の揺れが生じる理由

 ロシア語を知っている人なら、こうした表記の違いがなぜ起きるのかわかるでしょうが、ロシア語を知らない人のために説明します。これは主としてロシア語の発音をどこまで忠実に再現するかという考え方の違いから生まれていると考えられます。具体的にはまずカラシニコフから。

 カラシニコフ/ Калашников/ Kalashnikovは有名人だし朝日新聞社が本を出しているくらいなので「カラシニコフ」という表記は定まっていますが、そうした中で「カラーシニコフ」、「カラーシュニコフ」、「カラーシニカフ」、また、あり得る表記としての「カラーシュニカフ」という表記がなぜ生まれるか解説してみましょう。
 ロシア語には英語のshit、sheetのように短母音・長母音の区別はありませんがアクセントのある母音は強く長く発音されます。そのためアクセントのある部分に長音符を付けることがあります。長音符を付けるのはマストではないのでロシア大統領のプーチンサンクトペテルブルクで働いていた頃や連邦保安庁長官になる頃まではプチンでした。その後、首相、大統領代行に出世する頃から名前もプーチンに出世しました。ということでカラシニコフ/ Калашников/ Kalashnikovは2番目の"a"にアクセントがあるので「カラー・・・」になります。ロシア文字で5番目の文字"ш"、ローマ字で5番目と6番目の"sh"を「シ」にしたり「シュ」にしたりするのは窓枠のsashが「サッシ」になったり「サッシュ」になったりするのと同じです。「・・・ニコフ」か「・・・ニカフ」かはアクセントのない"o"が"ə"(IPA記号です。カナではア列のカナで表現せざるを得ません)になることを再現するかしないかの違いです。発音の再現性の順に並べれば、
カラシニコフ → カラーシニコフ → カラーシニカフ、又は
カラシュニコフ → カラーシュニコフ → カラーシュニカフ
になって右の方が再現性が高くなります。「シ」と「シュ」のどちらが"ш/sh"に近いとするかは個人の感覚でしょう。
 автомат/avtomatも同様で、最後の"a"にアクセントがあるので「・・マート」になり、3番目の"o"にアクセントが来ないために"ɐ"(カナではア列のカナで表現せざるを得ません)になることを表現するかしないかで、アフマートになるかアフマートになるかの違いが起きます。

 冒頭にあげた銃器設計者のうち「×デグチャレフ/ Дегтярёв/ Degtyarev」の解説です。ロシア語を知っている人なら「デクチャリョフ」で決まりだろうというかもしれませんがそうでもありません。エカテリーナが「エカチェリーナ」や「イェカチェリーナ」になる例がありますから油断できません。

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Wikipediaの「デグチャレフPTRD1941」の記事のプリントスクリーン
Degtyarev、Degtyarevaの表記がカオス状態

 ここでは1行目は銃器マニア的に「デグチャレフ」になっていますが3行目は僕としては「ここまでするか」とびっくりした「ヂクチリョーヴァ」という表記です。一方、4行目と5行目はおとなし目の「デクチャリョーフ」です。
 Дегтярёва/ Degtyarevaが「ヂクチリョーヴァ」(主格になれば「ヂクチリョーフ」)になる理由は"Де-/De-"と"-тя-/-tya-"にアクセントがないためそれぞれ"dʲɪ-"と"-tʲɪ-"、になるから「ヂ」と「チ」と書いたのでしょう*5。3番目の文字"-г-/-g-"は無声子音の前だから"k"と無声化し、最後の"-ё-/-e-"はアクセントがあるので「・・・リョーヴァ」になるという理屈でしょう。ここまで発音の再現を追求した表記は珍しいと思います。発音の再現性の順に並べれば、
デクチャリョフ → デクチャリョーフ → ヂクチリョーフですね。
 「デグチャレフPTRD1941」の記事があまりにもカオスなのでこれまで2021年10月15日にこれまで編集に参加してきた方々の考えを尊重しつつ、交通整理の形でWikipediaの記事を編集しました。現在はプリントスクリーンのようにはなっていません。
 「×フェドロフ」(英語読み)でも「フョードロフ」、「フョードロヴァ」だけでなく「フョーダラフ」、「フョーダラヴァ」という表記がありました。

どこまで再現すべきか、個人的意見

 IPA記号を確認すれば究極までロシア語の発音に近づけることができます。ロシアのВикисловарьという辞書サービスを提供するサイトではこんな具合に調べることができます。

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ВикисловарьのサービスでЕкатеринаを検索した結果
右下の赤線にIPA記号が表示されている。無料です。

 僕が好きな「エカテリーナ」を調べてみます。ロシア文字で「Екатерина」を検索窓に入力して検索し、スクロールするとIPA(ロシア語ではМФА)記号がわかります。エカテリーナ/Екатенина/ Yekaterina*6は[ɪkətʲɪˈrʲinə]になっています。「エカチェリーナ」や「イェカチェリーナ」ではまだ生ぬるくて「イカチリーナ」にしなければなりません。
 確かに「イカチリーナ」と発音してみると「エカテリーナ」よりロシア語っぽく聞こえます。でも、「Екатенина/ Yekaterina」を「イカチリーナ」と書いてしまうと、僕としては洗濯機を「せんたっき」、北極海を「ほっきょっかい」、体育館を「たいっかん」と書くような違和感があります。そーゆー感じはしませんか?

 では、どこまで発音を再現すべきでしょうか。「デクチャリョフ」で我慢するか「ヂクチリョーフ」(実際には「ジクチリョーフ」としか発音できない)まで突き詰めるかです。ここから僕の考えを述べます。
 初級の語学教科書にあるような発音を表すためのカタカナ表記に意味があることは認めつつも、僕としてはIPAまで調べてカタカナ表記をする必要はない思います。理由は次のとおりです。
 第一に、そもそもカタカナでは原語の発音を再現するには無理があるからです。RとLの区別ができない、母音の付かない子音は表現できない、母音は5種類しか表現できない、という具合で原語の発音に近づけることはできても限界があるからこだわってもしかたがありません。
 第二に、あまりに発音に拘泥すると原語の綴りを再現できなくなります。イカチリーナやヂクチリョーフという表記からは元の綴りを想像できません。
 第三に、第二の問題とも関連しますがよく使われるローマ字で転写された表記との整合も取れないことも挙げられます。ロシア語のローマ字転写はたいていの言語で発音の再現を考慮しつつも綴りの再現を重視しているからです。デクチャリョーフ、Degtyarev(英語式)、Degtjarjow(ドイツ語式)とДегтярёвの関連は想像できてもヂクチリョーフからДегтярёвを創造するのは無理でしょうね。
 ということで僕は発音の再現に留意しつつもロシア文字を機械的にカタカナに翻字することにしています。「エカテリーナ」程度にして「エカチェリーナ」、「イェカチェリーナ」、「イカチリーナ」にはしないということです。この記事に出てきた言葉に当てはめれば、
Калашников, Калашникова → カラシニコフ、カラシニコヴァ
автомат → アフトマート
пулемёт → プレミョート
Дегтярёв, Дегтярёва → デクチャリョフ、デクチャリョヴァ
Фёдоров, Фёдрова → フョードロフ、フョードロヴァ
という具合になります。
 長音符はよほどおかしくならない限り使いません(ここは個人の感覚であって突っ込みどころです)。アフトマト、プレミョトでは抵抗があるのでアフトマート、プレミョートにします。短い言葉は長音符を付けた方が耳になじみますが長い言葉なら長音符はあまりつけなくても大丈夫のような気がします。プーチンレーニンに対してエリツィンゴルバチョフという具合です。
 アクセントの位置による母音の変化も反映しません*7。これはローマ字表記では母音の発音の変化を反映することがまずないため、それとの整合を取りたいというのが理由です。
 僕の記事ではこの調子でロシア語をカタカナ表記します。でも、「アフタマート」が広く通用するようになれば、хорошо/ khorhshoが「ホロショー」ではなく「ハラショー」になるのにならって「アフトマート」から「アフタマート」に変えるかもしれません。

 このやり方がロシア語の正しい発音を目指す人の賛同を得られないことは重々承知です。僕としてもロシア語として読むときはロシア語らしく読みます(読むように努めています)。憲兵/miitary policeを意味する「Военная полиция/ Voyennaya politsiya」を僕流のカタカナ転写の「ヴォエンナヤ・ポリーツィヤ」と読んだら通じないことはなくても「綴り字発音」になりますから「ヴァイェーナヤ・パリーツィヤ」くらいに読まなければならないでしょう。

最後に

 銃器マニアの間で「アフタマート」という書き方が広まっていることに言及しました。僕の想像ですが、Wikipediaの「アサルトライフル」の記事の「アフタマート」の項目を執筆した方の影響ではないでしょうか。こうした方々の努力により「×フェドロフ」が「フョードロフ」に、「×デグチャレフ」が「デクチャリョフ」(ゴルバチョーフじゃないんだからデクチャリョーフにしない方がいいと思います。)に変わっていくことに期待したいと思います。「ネッスル」が「ネスレ」になったように。

 

*1:ロシア語のローマ字転写は言語ごとに様々ですが、英語の場合、発音はほぼ無視してロシア文字を1文字ずつ機械的にローマ字に翻字するのでこうなります。ドイツ語だとある程度発音を再現して例えばавтомат ФёдроваならAwtomat Fjodorowaという風に書くことがありますからある程度ロシア語の発音に近くなります。

*2:長らくロシアの国連大使だったチュルキン/Чуркин/Churkinを「チャーキン」と書いた人がいましたが日本語の新聞を見せて「チュルキン」だということを納得してもらいました。アメリカ人は「チャーキン」と呼んでいたんでしょうね。

*3:英語に詳しい人から「ゴーバチェフがなぜゴルバチョフになるんだ。綴りから見ておかしいんじゃないか」と言われたことがあります。

*4:пулемёт/ pulemetを「プリミョート」とするのは発音重視の表記です。綴り重視ならプレミョートになります。

*5:もっとも"dʲɪ"の発音を表現するために「ヂ」と書いてもロシア語を知らない日本人なら「ジ」と同じ発音になるでしょう。

*6:ローマ字転写なら"Yekaterina"でしょうが英語表記なら"Catherine"でしょうね。

*7:ハラショー/хорошо/ khorosho、スパシーバ/спасибо/ spasibo、ダモイ/домой/ domoy(シベリア抑留者なら分かる)のように耳から入ったロシア語はしょうがないですね。

ソ連・ロシアにおける兵器の分類、小火器

兵器の分類に国際的な標準・基準はない 

 ベルギーの5.56mm弾を使うFN CALやFN FNCはフランス語でcarabine、つまり騎銃(カービン)ですが同じ5.56mmを使う米軍向けのFN SCARはassault rifle/アサルトライフルです*1。国内向けには騎銃(カービン)、米国向けにはアサルトライフルなんですね。米軍のM16A2小銃(ライフル)を短くした銃はM4騎銃(カービン)です。運用側が本格的な小銃(ライフル)ではなく取り回しが楽な騎銃(カービン)だと位置づけているのでしょう。
 このように銃器を含む兵器の分類には国際的に共通なものはなく、国ごとに勝手に分類しています。

ソ連・ロシアの兵器の分類を紹介する理由

 こうした中、銃器関係のライター(銃器ジャーナリスト?)やアマチュアの銃器ファンは独自に理論的に分類しようとしています。僕としては民間の研究者は結構良い仕事していると思います。例えば個人携行の自動火器を、小銃弾を使うバトルライフル(全自動で撃ったら人間が振り回される銃)と中間弾薬を使うアサルトライフル(全自動で撃っても人間が振り回せる銃)に分けるのは実態にあったうまい考え方だと思っています(アメリカの受け売りだとしても)。国(政府機関)としても民間で通用している考え方をデファクトスタンダードとして受け入れたりしています。例えば自衛隊には「小銃」という火器しかありませんが防衛省規格にはアサルト・ライフル/assault rifleの日本語訳である「突撃銃」が記載されています。
 僕は日本の兵器や軍事に興味がある人達が公的な、あるいは「防衛技術協会」のような権威ある組織の分類や用語を必ず使わなければならないとは考えていませんが、兵器の分類を研究する出発点として公的な分類を知ることは役に立つと考えています。
 日本の銃器研究者(ファン・マニア)は概ね米国のジャーナリズムで使われている考え方や用語をほぼそのまま流用、極端に言えば英語の単語をカタカナにしているだけというのが実態のようです。そういうこともあってか銃器の専門家でもない僕が言うのは口はばったいのですが、ソ連・ロシアの兵器に関する話を聞くと、「ソ連・ロシアの考え方を知っていればこうはならないだろうな」と感じることがあります。
 このシリーズでは銃器研究者(ファン・マニア、オタク?)の方々の参考としてソ連・ロシアで行われている兵器体系の考え方を明らかにしたいと思います。

 今回の記事では、けん銃から機関銃までの小火器の分類について述べます。

根拠文書

 僕としては日本の銃器ジャーナリズムの慣例に概ね従うものの、公的な文書があればそれに準拠します(公的であれば常に妥当だとは言えませんが)。僕なりの考え方もあるのですが「お前の考え方なんかに関心はない」とおっしゃる方もいらっしゃると思いますから客観的事実と僕の開設、僕の意見は分かるようにするよう努めます。

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防衛省規格 火器用語(小火器)のプリントスクリーン
ネットで検索でき、PDFファイルとしてダウンロードできます。


 この「防衛省規格 火器用語(小火器)」は用語を体系的に詳しく解説しているので勉強になります。防衛技術協会の「火器弾薬技術ハンドブック」などのちゃんとした書籍をお金を出して買うのが王道ですが、ただで手に入るものを活用しない法はありません。銃器に関心のある方々には一読を勧めます。用語の一覧の右端には「対応英語(参考)」が付されているので日本語の用語がわからなくても大丈夫です。このシリーズでは「防衛省規格」と呼びます。

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「国家間規格 小火器 用語と定義」のプリントスクリーン
ロシアの文書検索サービスで閲覧が可能です。
残念ながら英語(Smal-arms...)が書いてあるのはこのページだけです。


 ロシアの公的文書として「国家間規格 小火器 用語と定義」を使います。この記事では「GOST」と呼びます*2
 この記事ではGOSTの用語を抜粋する形でロシアにおける小火器の分類を紹介します。GOSTは産業用の規格であるためか兵器ではない空気銃とか猟銃、今は使われていない先込め銃とかも記述していますがこの記事では取り上げません。

 なお、このシリーズではロシア語のローマ字転写は表記しますがロシア文字は特に必要な場合以外表記しません。ロシア語を知らない人にとっては無意味ですし、ロシア語を知っている人ならばローマ字転写の表記を見れば元のロシア語が推測できるからです。また、ロシア語のカタカナ表記は発音を転写したものではなく、発音の再現を考慮しつつも綴りを基準にカタカナに転写したものです*3。銃器マニアになじみのある英語由来のカタカナ語も必要に応じて付記します。

小火器の分類

小火器/strelkovoye oruzhiye/ストレルコヴォエ・オルージエ/スモール・アームズ

 まず包括的な用語である「小火器、銃、銃器」です。火砲より小さな火器ですね。
 ロシア語を字義どおり訳せば、strelkovvoye/ストレルコヴォエは「strelok/ストレロク、射手、飛び道具を操る者」から派生した形容詞、oruzhiye/オルージエは「兵器」という名詞ですから「(槍やてき(擲)弾ではなく弓矢や銃などの)飛び道具を操る者の兵器」ですね。GOSTの定義は「人畜*4その他の目標を撃破し、又は信号を伝え、あるいは到達させるための飛翔体に運動の方向を与えることを目的とする銃身を備えた兵器と弾薬の総体」です。
 防衛省規格では小火器・銃器・銃は「火薬類の燃焼ガスの圧力により飛しょう(翔)体(弾丸など)を射出する装置のうち小形なもの。通常,口径20mm未満の火器をいうが,最近では,口径が大きいてき(擲)弾発射器などの個人携行火器を含めることが多い。」と説明されています。対応英訳はsmall armsです。表現は異なりますがGOSTの定義とほぼ一致します。口径20mm以上の火器を火砲に分類するところもGOSTと同様です。一方、GOSTには記載されていないてき弾発射機(器)は防衛省規格では含まれるとされていますがてき弾発射器関係の用語は最後の方に少しだけ掲載されています*5

 僕なりに丸めて表現するなら「ガスの圧力で筒から物を打ち出す兵器のうち、人が取りまわせる程度の小さいもの」つまり、「銃」ということになります。
 考えてみるとロシア語には日本語の「銃」に相当する総称がないようですね*6。だからけん銃から機関銃までを包括する「strelkovoye oruzhiye/ストレルコヴォエ・オルージエ」という人工的な用語を使わなければならないのかもしれません。日本語では「銃」で済ますことができますが一般用語的なので「小火器」というもっともらしい専門用語も使うのでしょう。

手動火器/neavtomaticheskoye strelkovoye oruzhiye/ニェアフトマチチェスコエ・ストレルコヴォエ・オルージエ

 直訳すれば「非自動火器」ですが定義に「射手の筋力で操作、装てん(填)する」と書いてあります。まさか足を使うことはないので防衛省規格の「手動火器」の定義と一致します*7。日本の銃器マニアはボルトアクションとかポンプアクションとか言って、総称の「手動式」に相当するカタカナ語は使わないようですがどうでしょう。

自動火器/avtomaticheskoye strellkovoye oruzhiye/アフトマチチェスコエ・ストレルコヴォエ・オルージエ/オートマティック・ファイアアームズ

 全自動射撃(引き金を引いている間、弾が連続して発射される射撃)ができる火器です。防衛省規格では自動火器は「自動式の小火器」(同語反復?)と説明されているので防衛省規格と一致します。
 ただし、日本語の自動式けん銃は半自動式(引き金を引くごとに1発ずつしか射撃できない)なのに自動式と呼んでいるので変です。慣例として弾倉で給弾するけん銃を「自動けん銃」とか「自動式けん銃」と呼んでいるからでしょうか。英語のautomatic pistolは全自動式のけん銃/machine pistol/マシンピストルと半自動式/semi-automatic ppistol/セミオートマティック・ピストルの両方を指すようです。

半自動火器(自動装てん火器)/samozaryadnoye strelkovoye oruzhiye/サモザリャドノエ・ストレルコヴォエ・オルージエ/セミオートマティック・ファイアアームズ、セルフローディング・ファイアアームズ

 直訳は自動(samo-)装てん(zaryadnoye)です。定義が防衛省規格の「半自動式」の火器に相当するので半自動火器と訳すことができます。self-loading/セルフ・ローディングという用語は銃器マニアで通用しているので自動装てん火器でも通じるでしょう。
 僕としては「半自動」は「全自動」に対する言葉のような気がするので、装てんだけを自動化した火器なら「自動装てん火器」でも良いと思います。

小口径火器/malokalibernoye strelkovoye oruzhiye/マロカリベルノエ・ストレルコヴォエ・オルージエ

 小さい(mal-)口径の(kalibernoye)小火器であって口径6.5mm以下です。日本語としてはあり得ますが防衛省規格ではこういう区分はしていません。

通常口径火器/strelkovoye oruzhiye normal'nogo kalibra/ストレルコヴォエ・オルージエ・ノルマリノヴォ・カリーブラ

 通常口径/normal'nyy kalibr/ノルマリヌイ・カリーブル(6.5mmより大、9mm以下)の火器です。こちらも日本語としてはあり得ますが防衛省規格ではこういう区分はしていません。「中口径」という言葉があるのに「通常口径」を使うのは、6.5mm~9mmが「通常」の小銃弾の口径だからでしょうか。

大口径火器/krupnokalibernoye strelkovoye oruzhiye /クルプノカリベルノエ・ストレルコヴォエ・オルージエ

 大(krupno-)口径(kaibernoye)の小火器で、9mmより大きい口径です。こちらも日本語としてはあり得ますが防衛省規格ではこういう区分はしていません。小火器の定義に従えば口径は20mmまでです。

 日本語で銃に分類される火器が6.5mmと9mmを境に3つに区分されているわけです。6.5mmより口径が小さければ競技用の銃、6.5mmから9mmまでなら小銃用、それ以上は小銃弾を超える威力の弾薬用の火器という考え方でしょうか。それでも同じ自動小銃(突撃銃、アサルトライフル)なのに7.62mmのAKMまでが通常口径、5.45mmのAK-74からが小口径になるのは変ですね。

長銃身火器/dlinnostvol'noye strelkovoye oruzhiye/ドリンノストヴォリノエ・ストレルコヴォエ・オルージエ

 長い(dllinno-)銃身の(stvol'noye)小火器で、銃身長が300mmより大、全長が600mmより大です。これも日本語としてはあり得ますが防衛省規格ではこういう区分はしていません。ロシアの法体系での区分を反映しているのでしょうか。

短銃身火器/korotkostvol'noye strelkovoye oruzhiye/コロトコストヴォリノエ・ストレルコヴォエ・オルージエ

 短い(korotko-)銃身の(stvo'noye)火器で、銃身長が300mmより小、全長が600mmより小です。こちらも日本語としてはあり得ますが防衛省規格ではこういう区分はしていません。

単発銃(単発式火器)/odnozaryadnoye strelkovoye oruzhiye/オドノザリャドノエ・ストレルコヴォエ・オルージエ

 1発(odno-)装てん(填)(zaryadnoye)の小火器。GOSTの定義では「単銃身の銃であって装弾機構がなく、弾薬が1発装てんされる火器」です。防衛省規格には「単発式」という用語があります。日本の自衛隊保有する火器としては信号けん銃がこれに当たるでしょう。

連発銃(連発式火器)/mnogozaryadnoye strelkovoye oruzhiye/ムノゴザリャドノエ・ストレルコヴォエ・オルージエ

 複数弾(mnogo-)装てん(填)(zaryadnoye)の小火器。GOSTでは装弾機構があるか1発より多い弾薬の銃とされていますから水平2連・上下2連の装弾機構がない猟銃もこれに区分されるでしょう。防衛省規格には「連発式」という用語がありますが「弾倉を有し」とあるので防衛省規格的には水平2連・垂直2連の猟銃は連発式の銃にはならないことになります。防衛省規格ですから防衛省保有する可能性のない火器の記述はないのでしょう。産業用の規格であるためか、GOSTは猟銃・散弾銃・空気銃・垂直2連銃・水平2連銃も記述しています。

自動式けん銃(けん銃)/pistolet/ピストレート/ ピストル

 GOSTの定義では「射撃に際して片手で保持・操作する構造の短銃身火器」となっていて、回転式けん銃も含む総称として扱われています。
 とはいうもののロシアでは一般に弾倉式のけん銃と回転式けん銃は別物と考えられています。ロシアで回転式けん銃を差して「ピストレート」と言ったら素人だとバカにされるでしょう。

回転式けん(拳)銃/revol'ver/レヴォリヴェル/リボルバー

 GOSTでは「弾薬を込める回転部又は複数の銃身から成る回転部を持つ(広義の)ピストレート」と定義されています。

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ロシア語版Wikipediaの「Бундельревольвер Мариетта」の記事に掲載された写真。
いわゆるペパーボックスという銃の一種で、銃身をレンコン状というか蜂の巣状に束ねた部分が回転する

博物館でしか見られないようなこんな銃もレヴォリヴェルなんですね。英語ではこれはrevolverに分類されるのでしょうか。それともmulti-barrel firearmなのでしょうか。

小銃/vintovka/ヴィントフカ/ライフル

 GOSTの定義は「射撃の際に銃床を肩で支え、両手で保持・操作する構造の施条銃」です。ネジ(vint)状の刻み、すなわち腔線がある(ライフリングがある)銃ですが腔線がある銃(施錠銃)であれば全てヴィントフカと呼ばれるわけではありません。僕としては西側で言うライフルより狭いカテゴリーになると考えます。
 西側で対戦車ライフルと呼ばれるデクチャリョフ対戦車銃PTRDがヴィントフカとは呼ばれないのは二脚架で地面に委託しなければ射撃できないからなのでしょう。英語でも腔線がある(ライフリングがある)銃(施条銃)だからと言ってけん銃や騎銃(カービン)をライフルとは呼びませんよね。現代ロシア軍が保有するヴィントフカはSVD狙撃銃だけではないでしょうか。

狙撃銃/snayperskaya vintovka/スナイペルスカヤ・ヴィントフカ/スナイパー・ライフル

 snayperskaya/スナイペルスカヤは見てわかるとおり英語のsniper由来です。GOSTの定義は「高い精度の射撃が可能な構造の戦闘用小銃」です。防衛省規格では「狙撃用眼鏡を装着して使用する」とされています。この辺から具体的な兵器の名を例示していきましょう。

ドラグノフ狙撃銃、SVD/snayperskaya vintovka Dragunova/スナイペルスカヤ・ヴィントフカ・ドラグノヴァ、エスヴェーデー

 ドラグノヴァ/Dragunovaは生格(所有格)で主格はドラグノフ/Dragunovです。

ドラグノフ狙撃中折り畳み銃床型、SVDS/エスヴェーデーエス

 最後の「S」は「折り畳む銃床付き/so skladyvayushchimsya prikladom/ソ・スクラドゥイヴァユシチムシャ・プリクラードム」(北海道弁で「折り畳まさる銃床付き」と書きたい)、「折り畳み式銃床付き/so skladnym prikladom/ソ・スクラドヌイム・プリクラードム」又は「折り畳まれる銃床付き/so skladyvayemym prikladom/ソ・スクラドゥイヴァエムイム・プリクラードム」という意味です。教範レベルで「折り畳む」、「折り畳み式」、「折り畳まれる」の3者が使われていますが実態は同じです。日本の銃器マニア的には「フォールディングストック付き」です。
 SVDSは空てい部隊用ですが、狙撃銃のように精度が要求される銃の銃床が折り畳み式で良いのか疑問です。

騎銃/karabin/カラビン/カービン

 GOSTの定義では「銃身を縮め、軽量化した小銃」ですが、現代ロシアではけん銃弾と小銃弾の中間の威力の中間弾薬/promezhutochnyy patron/プロメジュートチヌイ・パトロン/intermediate cartridgeを使う銃が騎銃と考えられています。

シモノフ自動装てん騎銃、SKS/samozaryadnyy karabin Simonova/エスカーエス

 この銃はAKに置き換えられましたがクレムリンで儀じょう(仗)を行う第154プレオブラジェンスキー独立警備連隊/154-y otdel'nyy komendantskiy Preobrazhenskiy polkが装備しています。アメリカで儀仗部隊や無名兵士の墓の衛兵がM14ライフルを使っているのと同じですね。報道・広報画像を見る限り同連隊はAK-74も装備しているようですがSKSでの戦闘訓練や射撃訓練もしていました(数年前に動画を見ました。)。ロシア軍が保有している騎銃はこれだけでしょうがまだ現役で使われているわけです。

自動小銃(自動銃)/avtomat/アフトマート/アサルトライフル

 GOSTの定義では「自動式の騎銃」としか書かれていません。ロシア人的にはアフトマートは小銃(ヴィントフカ)とは別物と考えられています。ロシア語のавтомат/ avtomatは英語のautomatやautomatonと同様、本来自動機械の意味であって自動販売機やATMの意味もあります。僕としては、引き金を引いていれば弾が自動的に出る銃だからこう読んだのではないかと思います。
 銃器研究者の間には小銃弾を使うバトルライフルに対して中間弾薬を使う自動火器がアサルトライフルだとする考え方があります。この観点からアフトマートの概念は短機関銃を含むことがあるにしてもアサルトライフルにほぼ一致していると思います*8アサルトライフルというカタカナ語を避けたいというのなら(僕は避けたい)、「突撃銃」だとオタク臭い、「自動騎銃」じゃなじみがない、「自動銃」は自衛隊の訓練資料で使われていますが馴染みがないしブローニングのBARみたいな感じがする。ということで「自動小銃」を使うほかないと思います。
 英語のautomatic rifleの直訳としての自動小銃/avtomaticheskaya vintovka/アフトマチチェスカヤ・ヴィントフカ、ドイツ語のSturmgewehr又は英語のassault rifleの直訳として突撃小銃/shturmovaya vintovka/シトゥルモヴァヤ・ヴィントフカという言葉もあってロシアの銃器マニアが使っていますが、ソ連・ロシアにはそう呼ばれる兵器はありません。アメリカのM16A2ライフルやM4カービンもアフトマートと呼びます。

AKS74M/AKS cem'desyat chetyre M/アーカーエスセミデシャト・チェトゥイレ・エム

 3番目の文字「S」はSVDSの最後の「S」と同じ折り畳み銃床付き(フォールディングストック付き)の意味。最後の「M」はmodernizirovannyy/モデルニジロヴァンヌイ、「近代化された」(modernised)の意味。

AKS74U/AKS cem'desyat chetyre U/アーカーエスセミデシャト・チェトゥイレ・ウー

 最後の「U」はukorochennyy/ウコロチェンヌイであって「短くされた」の意味。短くなってもアフトマートのままです。
 アメリカ人や日本の銃器マニアはこれをカービンとかショートカービン(この二つはどう違うんでしょ?)と呼んでいます。でも、元の長い方のAKS-74も自動式カービンですからカービンが短くなってカービンになったという変なことになります。

短機関銃/pistolet-pulemet/ピストレート・プレミョート/サブマシンガンSMG

 直訳すればけん銃機関銃です。「機関銃のように弾が出るけん銃」ということでしょうか。普通のロシア人は軍人を含めピストレート・プレミョートのような専門用語はあまり使わずavtomat PPSh/アフトマート・ペーペーシャー(PPSh)という具合にアフトマートと呼んでいます。現代ロシア軍の現役銃としてはないと思います。

機関銃/pulemet/プレミョート/マシンガン、MG

 字義から言えば、弾(pulya)を投げる(metat')ものです。英語で直せば「bullet thrower」でしょうか。GOSTの定義で「射撃に際して支えを利用することを想定した構造で間断のない長時間の射撃を行うための自動火器」とされているので、人間が手で振り回せるような銃は機関銃ではないということです。

軽機関銃(肩撃ち機関銃)/ruchnoy pulemet/ルチノイ・プレミョート/ライト・マシンガン、LMG

 GOSTの定義では「基本的な射撃姿勢が二脚架に委託し銃床を肩で支える要領であることを想定した構造の機関銃」とされています。防衛省規格の「小銃と同一の弾薬を用いる比較的軽量の機関銃」よりも定義がはっきりしています。ルチノイ/ruchnoyは、英語のarmとhandを包含する意味のルカ/ruka*9から派生した形容詞です。この場合のルチノイ/ruchnoyは肩撃ちと訳すのが適訳ですから肩撃ち機関銃としたいところですし、実態に合っていると思います。もっとも、日本で軽機関銃、米国でlight machine gunと呼ぶ火器はロシアのルチノイ・プレミョート/ruchnoy pulemetと一致するので新しい日本語を作るのではなく軽機関銃と訳すのが適切でしょう。
 ちなみに日本には軽機関銃としても運用できる機関銃はあっても純然たる軽機関銃はありません。

カラシニコフ軽機関銃、RPK/ruchnoy pulemet Kalashnikova/ルチノイ・プレミョート・カラシニコヴァ

 基本的にAKMの銃身を長くして2脚を付けた銃です(ほかにも変えたところがありますけど)。デクチャリョフ軽機関銃RPDの後継という位置づけです。銃器マニアは分隊支援火器(Squad Automatic Weapon, SAW)と位置付けています。ロシアにそういう位置づけがあるかはわかりませんが分隊の火力を増大させるための火器であることは確かです。

重機関銃/stankovyy pulemet/スタンコヴイ・プレミョート/ヘビーマシンガン、HMG

 架台/stanok/スタノクに据えて運用する機関銃だから架台機関銃あたりが直訳であり適訳です*10。小銃弾を使う機関銃についてこの用語を使うようであり、ロシアの(たいていの近代国家の)現有装備でこれに区分される銃はなさそうです。昔のマキシム機関銃、米軍のM1917、旧軍の92式重機関銃のような銃です。僕的には車両から降ろした74式車載機関を三脚架に据えたらロシアの定義どおりの重機関銃になると思います。

汎用機関銃/yedinyy pulemet/エジーヌイ・プレミョート/ジェネラルパーパスマシンガン、GPMG

 直訳は一本化(yedinyy)機関銃。軽機関銃としても重機関銃(架台機関銃)としても運用できる機関銃であり、汎用機関銃(general-purpose machine gun)と概念が一致します。装備の名前としては単に機関銃(pulemet)と呼ばれます。列国が現在装備している小銃弾を使う機関銃はたいていこれじゃないでしょうか。

カラシニコフ機関銃、PK/pulemet Kalashnikova/プレミョート・カラシコヴァ

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ロシア語版WikipediaのПулемёт Калашниковаの記事の画像
2脚架で支えられている

 この銃は二脚架で支えて射撃することも、三脚架(stanok-trenoga)に据えて射撃することももできます。銃の名称には一本化(yedinyy)という言葉は含まれていません。これを改修すると車載機関銃にもなります。

車載機関銃(戦車機関銃)/tankovyy pulemet/タンコヴイ・プレミョート/

 tankovyy/タンコヴイは「戦車(tank)の」を意味する形容詞。GOSTの定義では「戦車への据え付けと運用の要求を考慮した構造の機関銃」ですから直訳は「戦車機関銃」か「戦車用機関銃」でしょうが、戦車に限らず戦闘車両にも据え付けることができます。

カラシニコフ車載機関銃、PKT/pulemet Kalashnikova tankovyy/プレミョート・カラシニコヴァ・タンコヴイ、ペーカーテー

 カラシニコフ機関銃PKの銃床を取り外す、銃身を肉厚にするなどの改修をしたバージョン。62式機関銃と74式車載機関銃の関係に似ていますが74式車載機関銃は62式よりかなり重くなっています。

重機関銃(大口径機関銃)/krupnokalibernoye pulemet/クルプノカリベルヌイ・プレミョート/

 GOSTにはこの項目はありませんが具体的な兵器を注す言葉として一般に使われています。大口径火器の定義に従えば小銃弾より口径の大きな(9mmを超える口径の)弾薬を使う機関銃ということになります。防衛省規格では重機関銃を「比較的質量が大きく,小銃の口径よりも大きい弾薬を使用する機関銃」と説明していますから防衛省規格でいう重機関銃の説明に当てはまります。一方、小銃弾と同じ口径の弾薬を使う92式重機関銃は小銃の口径と同じ弾薬を使っていたので今の防衛省規格でいう重機関銃には含まれないでしょう。
 言い換えればロシアでは日本やアメリカが重機関銃と呼んでいる銃を、小銃弾を使うもの(stankovyy pulemet)と小銃弾より大口径の弾を使うもの(krupnokaliernyy pulemet)に分けているということです。ロシア・日本を含む近代国家の現用兵器にstankovyy pulemetはないので実態として大口径機関銃イコール重機関銃です。米軍の12.7mm重機関銃M2もこの分類です。

大口径機関銃NSV/krupnokalibernyy pulemet NSV/クルプノカリベルヌイ・プレミョート・エヌエスヴェー/NSV重機関銃

 12.7mmの重機関銃(大口径機関銃)です。NSVはNikitin/ニキーチン、Sokolov/ソコロフ、Volkov/ヴォルコフという3人の設計者の姓です。

ヴラジミロフ大口径機関銃KPV/krupnokalibernyy pulemet Vladimirova/クルプノカリベルヌイ・プレミョート・ヴラジミロヴァ、カーぺーヴェー/KPV重機関銃

 14.5mmの重機関銃(大口径機関銃)です。地上に置く機関銃としてより高射機関銃システム用として使われている銃です。
 ちなみに高射機関銃システムZPU-1、2、4のZPUはZenitnaya Pulemetnaya Ustanovka/ゼニトナヤ・プレミョートナヤ・ウスタノフカ/高射機関銃装置の頭字語です。artilleriyskaya ustanovka/アルチレリースカヤ・ウスタノフカ/砲術装置が火砲と砲架その他の付属装備をまとめた表現であり、実態として日本語で言う火砲であることを考えると、プレミョートナヤ・ウスタノフカをまとめて機関銃と訳し、全体として「高射機関銃」又は4丁まとまっていることを考えて「高射機関銃システム」くらいに訳しても良いでしょう。
 ロシアのネット民でKPVを「世界最強の機関銃」と自慢している者がいます。まあ、機関銃として最強であるのは正しいでしょうが最強の機関銃より強力な兵器として口径20mmの機関砲があるのですからそういう自慢は無意味でもあります。

ソ連・ロシアにおける小火器の分類の注目点

 注目点と言っても日本の考え方との違いということになります。大きなところは、
〇 銃器研究者による最近の定義によるアサルトライフルの考え方に気味が悪いほど一致するアフトマート(avtomat)という分類がある。
〇 日本で重機関銃に分類される機関銃が小銃弾を使う重機関銃(直訳:架台機関銃/ stankovyy pulemet/スタンコヴイ・プレミョート)と9mm以上20mm未満の大口径の弾薬を使う重機関銃(直訳:大口径機関銃/ krupnokalibernyy pulemet/クルプノカリベルヌイ・プレミョート)の二つの分類に分けられている。

という2点でしょうか。

 

 小火器の分類はこれで一区切りです。今後は個々の小火器に移るか、小火器の上の火砲の分類に進むか、ロシア軍事の別の分野で記事を書くかのいずれかになります。ロシア語についての記事も考えています。

 

*1:IPA表記だと[əsəsˈɔːlt rάɪfl]のようですからアソートライフルと書いた方がいいんじゃないですかね?

*2:ГОСТ/GOSTはГОсударственный СТандарт/ GOsudarstvennyy STandart/国家規格又は国家標準規格です。ソ連崩壊後、ロシア以外の旧ソ連構成国の一部でも使われるため「Межгосударственный стандарт/ Mezhgosudrstvennyy standart/国家間規格」に名前が変わっていますが略語はそのままです。いろんな事情があるのでしょう。日本の農林水産省のサイトでは「国家標準規格(GOST)」になっています。

*3:カタカナ転写についての僕の考え方は僕の別の記事「ロシアの軍事用語のカタカナ表記、アブトマット?、アフトマート?、アフタマート?」をご覧ください。

*4:直訳すれば「生命のある目標」

*5:防衛省規格でてき弾発射機(器)が「最近」小火器(銃)に含まれたのは、96式40mm自動てき弾銃が「銃」と名付けられたからかもしれません。96式40mm自動てき弾銃については同種の兵器である米軍のMk 19やソ連のAGS-17がてき弾発射器(機)と呼ばれていたのに口径が40mmもあって銃なのはおかしいと自衛隊の武器科の人が言っていたのですが、当時のPKOからみの政治的配慮から「発射器(機)」ではなく「銃」としたのかもしれません。これは僕の憶測ですけれど

*6:ロシア語を知っている人からは、ружьё/ ruzh'eがあるじゃないかと言われるかもしれません。確かに古くからある言葉のようですがそれだけに俗語っぽくて日本語としては「鉄砲」のような感じでしょうか。受けるイメージは猟銃や散弾銃です。

*7:カタカナ表記で「не/ne」を「ネ」と転写するか「ニェ」と転写するか迷いました。英語でnoを意味する「нет/ニェット」というロシア語が知られていることを考えて「ニェ」にすることにしました

*8:Wikipediaの「アサルトライフル」の記事の「アフタマート」の項を見てください。ここの説明より詳しい解説が見られます。カタカナ表記の考え方の違いから僕は「アフトマート」と書きますけど。

*9:日本語でも厳密な文脈でなければ「て」といったら手と腕を含みますね。ロシア語では脚と足も一緒くたにして「noga」と言いますから日本語に似ています。

*10:防衛省規格では機関銃を据える台につき、主として車や艦艇に据え付けるための架台を銃架と呼んでいます(対空銃架は地面に置くこともある)。銃架機関銃では車載機関銃と紛らわしいし、地面に置く機関銃用の架台が全て三脚架とは言えないので三脚架機関銃と訳すことにも抵抗があります。

ソ連・ロシアの銃の区分「アフトマート」

AKシリーズは実はカービン

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ロシアの教育者用ポータル(教材を紹介している)に掲載されたスライド
「生活安全の基礎」の科目の教材(10年生用)


  有名なロシア(ソ連)のAK-47、AKM、AK-74、AK-74Mとそれから派生した銃は一般には自動小銃と呼ばれ、ガンマニアは「アサルトライフル」と呼んでいます。僕はAKB48という女性アイドルグループを知った時、AK-47のもじりかなと思いましたがそうではなさそうですね。

 ロシアではこのたぐいの銃をавтомат/avtomatと呼んでいます。日本でも銃器ジャーナリストや熱心なガンマニアはこの言葉を知っています。日本の権威ある銃器ジャーナリストはアメリカの情報をネタにしていますから、英語式のローマ字転写の「avtomat」に引かれて「アブトマット」と書いています。したがって日本のガンマニアの間では「アブトマット」という表記が主流のようです。とはいうもののロシア語が分かる人は「アブトマット」に違和感があると思います。僕はロシア語の綴りを重視して「アフトマート」とカナに転写することにします*1

 本来の意味は英語のautomatやautomatonと同様、自動で動く仕掛けであり、自動販売機、ATM、自動工作機械を意味します。軍事用語としては自動装てん装置もавтомат/avtomatです。研究社の露和辞典では4番目に「自動小銃」という訳語が出現します。

 自動的に作動する、つまり引き金を引けば機械任せで全自動射撃ができる銃だからアフトマートと呼ぶのでしょう。

 GOSTでは、アフトマートは自動式の騎銃(カービン)/автоматический карабинと定義されています。小銃(ライフル)/винтовкаじゃなくて騎銃(カービン)/карабин/karabin/英訳: carbineなんですね。

小銃(ライフル)と騎銃(カービン)の区分は国によって違う

 日本では一般に肩撃ち式の銃で長いのを小銃(ライフル)、短いのを騎銃(カービン)と呼びます。防衛省規格でもそうなっています。アメリカでもライフルであったM16A2が短くなるとM4カービンになりました。アメリカは外国の武器であってもこの考え方を当てはめ、ソ連(ロシア)のAKS-74はライフル、その銃身を短縮したAKS-74Uをカービンと呼んでいます。本家のロシアでは両方ともアフトマートのままです。逆にソ連(ロシア)が騎銃(カービン)と位置付けているシモノフ自動装てん騎銃СКС/SKS(Самозарядный Карабин Симонова/Samozaryadnyy Karabin Simonova/Simonov selfloading carbine)はライフルと考えられることが多いようです。

 ロシアのGOSTでは騎銃(カービン)/карабинは「銃身を短くした軽量化された小銃/винтовка」と定義され、小銃(ライフル)/винтовкаは「射撃の際に銃床を肩で支え両手で保持し操作する構造の施条式の小火器」と定義されていて米国と同様のようですが、現代のロシアで騎銃(カービン)/карабинとなる要件(?)は小銃弾とけん銃弾の中間的な威力を持つ弾薬(промежуточный патрон/promezhutochnyy patron/英語: intermediate cartridge、中間弾薬)を使うことです。SKSは騎銃(カービン)、それと同じ弾薬を使い全自動射撃が可能なアフトマートは自動騎銃です。Wikipediaのロシア語版ではM16シリーズのライフルもM4カービンもアフトマート/автомат/avtomatになっていて区別していません。

 ロシアだけでなくベルギーも5.56mm 弾を使うFN CALやFN FNCはcarabineですね。米軍向けのFN SCARはassault rifleですけど。

AKシリーズをどう呼べばよいのか

 日本の銃器ジャーナリストや銃器マニアは全自動射撃が可能な肩撃ち銃について、けん銃弾を使う銃をサブマシンガン、中間弾薬を使う銃をアサルトライフル又はアサルトカービン、小銃弾を使う銃をバトルライフルに区分する傾向があります。アメリカでもまだ公式的な定義ではないのかもしれませんがアメリカで行われている区分をそのまま使っているのでしょう。使う弾薬により、けん銃弾を使うサブマシンガン、中間弾薬を使うアサルトライフル、小銃弾を使うバトルライフルと区分することは妥当だと思います。

 AKシリーズをロシア語どりにアフトマートと呼ぶわけにはいかず、GOSTの定義に従って自動騎銃と訳してもピンと来ません。ということで最近の定義のアサルトライフル(中間弾薬を使用する全自動・半自動両機能を有する肩撃ち銃)を使えばよいでしょう。アサルトライフルと呼ぶのがオタク臭がしていやなら(僕はいやです)「突撃銃」か「自動小銃」と呼ぶのが良いでしょう。防衛省規格はアサルトライフルとバトルライフルの区分はしていませんから防衛省規格的にはAKシリーズは「自動小銃」であり「突撃銃」です*2

短機関銃サブマシンガン)との関係

 露英辞典でавтоматの項の何番目かにsubmachine gunが出てきます。ロシア(ソ連)では銃としてのавтоматの英訳はほぼsubmachine gunで定着しています。ロシアの通信社のニュースの英語版ではアサルトライフルと考えられている銃(アフトマート)がsubmachine gunと訳されます。ロシア人的には第2次世界大戦で使われていたППШ/PPShのような短機関銃/submachine gunもアフトマートと呼んでいましたから問題ないのでしょう。厳密には短機関銃サブマシンガン)を意味するпистолет-пулемёт/pistolet-pulemet、直訳すれば「けん銃機関銃」という用語がありますが一般人も軍人もアフトマートと呼んでいますし、GOSTでは「けん銃弾を使用するアフトマート」と定義されています。威力が弱いアフトマートが短機関銃、威力を高めた短機関銃がアフトマートという感覚のようです。

 僕はアフトマートは小銃よりも短機関銃寄りの火器として扱われると考えています。東ドイツライセンス生産されたAK-47もMPi-K、Maschinenpistole K、つまり短機関銃サブマシンガン)と呼ばれていました。

 もっとも冷戦後に東ドイツが開発した輸出を狙った西側の5.56mm弾を使えるカラシニコフ系統の銃はSTG/Sturmgewer(突撃銃)と呼ばれました。冷戦終結社会主義的ポリティカルコレクトネスが解けて第二次世界大戦中のSturmgewehrという言葉が使えるようになったのでしょうか。東ドイツにとってもSturmgewehrの言い換え(同義語?)はMaschinenpistole(サブマシンガン)だったのかもしれません。

*1:хорошо/khoroshoをハラショー、спасибо/spasiboをスパシーバと書くように発音の再現を重視すれば「アフタマート」になりますし、そう書いている人もいます。

*2:防衛省規格では突撃銃は「突撃射撃に適している銃。全自動と半自動の機能及び多数弾を給弾できる弾倉を有する」と記されているので、防衛省的には小銃弾を使用する自動小銃であっても突撃射撃に適していれば突撃銃になると考えられます。つまりbattle rifleに対するassault rifleとは微妙に異なります。

ブログ開設

 趣味分野では別のブログサービスでブログを書いていますがそれでは物足りなくなって軍事、政治、社会に関する意見の発信や交換のためのブログとして「はてな」に参加しようと考えました。

 北朝鮮が鉄道発射式ICBMの発射実験の模様を発表しました。NHKは鉄道「発射」式と報じていましたが、ソ連の鉄道「移動」式ICBMを思い出しました。ソ連は冷戦時代に鉄道移動式ICBM(START上の名称РС-22/RS-22、米国防省記号SS-24、NATOコードScalpel)を開発・配備していました。このミサイル(面倒くさいのでSS-24とします)はソ連崩壊後もロシア軍により運用され、STARTの規定により相互に報告されていたミサイルの一覧からSS-24が抜けたのは十年くらい前のことだったと思います。ロシアの戦略ロケット軍司令官(現司令官カラカエフ大将の前の前のソロフツォフ大将だったでしょうか)はSS-24を高く評価していましたが、開発はロシアではなかったので(サイロ発車式の重ICBM SS-18と同様ウクライナの開発)後継のミサイルは現れませんでした。

 鉄道移動式ICBMは移動経路が鉄道上に限られるものの路上移動式より重いミサイルを運用できるところが利点だったのでしょうか。冷戦末期の米国はこのミサイルを脅威に感じていたようです。北朝鮮も鉄道移動式の利点を認識して頑張っているようですね。北朝鮮SLBM、路上移動式ICBMに加えて鉄道移動式ICBMまで手に入れようとしているわけです。固定式ICBMの強化サイロも作っているんでしょうね。

 SLBMICBMは衛星打ち上げ用ロケットと同じくらいのコストがかかるのですから民生に力を入れた方が良いですね。ロシア軍の参謀総長だったバルエフスキーはソ連の崩壊を踏まえてか「過度の軍事化は国家そのものの崩壊をもたらす」と言っていました。北朝鮮はどれくらい頑張れるのでしょうか。

 久しぶりにロシアのことを調べました。現役時代は仕事だったので一生懸命に一次資料を探したのですが、ブログのネタと調べるとなると根気が続きません。記憶に頼ったいい加減な話になりました。