ウクライナ侵攻、プーチンの誤算

ゼレンスキー大統領は25日のプーチン大統領の停戦交渉の呼びかけを拒否しました。

 

 2008年のグルジアジョージア)侵攻とかなり違います。当時のサアカシヴィリグルジア大統領は武力衝突勃発の3日後くらいにグルジア軍に対してロシア軍への抵抗の中止を命じたと記憶しています(グルジア全土の占領を恐れた?)。一方ロシアは構わず部隊を進めて南オセチアアブハジアの行政境界を大きく超えてトビリシ付近まで進撃を続け、グルジアの本土のかなりの部分を支配下に置いた状態で交渉が始まりました。ロシアは交渉が進むにつれ部隊を少しずつ撤収させていったことを見て、「優位な立場を確保して交渉に臨んだな」と感じたものです。

 プーチン大統領はこのようなシナリオを描いていたのかもしれませんがゼレンスキー大統領の戦意は強固なようです。

 ロシア軍のパフォーマンスもそれほどでもなさそうですから(南オセチア紛争でもロシア軍のパフォーマンスは高いとは思えなかった。ただ、大兵力を迅速に投入する能力は高かった)、局地的にはウクライナ軍に押し返されるかもしれません。

 南オセチア紛争のときはサアカシヴィリ大統領が先に手を出した(ロシアとしては手を出すのを待っていた?)こともあってロシアの行動は「やりすぎ」との批判はありましたが国際社会の風当たりは弱いものでした。サアカシヴィリ大統領への評価も「バカなことをしやがって」というものでした。

 いずれは停戦交渉が始まるでしょうがウクライナ侵攻ではプーチン大統領の思惑は外れてきたような感じです。

ロシアによるウクライナ侵攻開始

 ロシアがウクライナへの武力侵攻を始めちゃいました。

 僕は武力侵攻をするにしてもルガンスク人民共和国ドネツク民共和国に対するウクライナ武力行使への反撃という形でそれらしい口実を設けるかと思っていましたがいきなりやりました。

 ロシアがどう動くかはプーチン次第でしょうが、2008年のグルジア侵攻の例を考えればロシアの軍事行動はウクライナ東部にとどまらず、キエフ(キイフ)あたりまで侵攻して、ウクライナを震え上がらせ、その後ウクライナと停戦交渉をするというな感じになるのでしょうか。

 

ロシアによるドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の承認

 プーチン大統領は2月21日、ドネツク民共和国とルガンスク人民共和国の承認に関する大統領令に署名しました。

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大統領HPのスクリーンショット

 プーチン大統領による両「人民共和国」の承認は、2008年のグルジア紛争で南オセチア共和国アブハジア共和国を実質的に独立させたのと軌を一にしたやり方を思い起こさせます。平和維持部隊を送ったことも南オセチアと同じです。

 2008年のグルジア紛争では当時のサアカシヴィリグルジアジョージア)大統領が先に軍事行動を開始しましたが、ウクライナのゼレンスキー大統領はサアカシヴィリほど愚かではないでしょうからウクライナ東部での軍事行動はできないでしょう。

 もしウクライナ武力行使したらロシアとしては軍事進攻の口実になりますが軍事侵攻自体は目的ではないでしょう。

 ウクライナNATO加盟を断念し、両人民共和国(ノヴォロシア人民共和国連邦?)に手出ししなくなれば軍事侵攻はないかもしれません。もちろんウクライナに譲歩と妥協を強いるには軍事的圧力が現実的でなければなりません。

 ベラルーシから兵力を投入すればキエフ(キイフ)はあっというまに占領されてしまうでしょうからベラルーシへの部隊配備はウクライナNATOが折れるまで当分続くんじゃないでしょうか。

 NATOだってドイツやフランスはウクライナのために何かしようとするでしょうか?グルジアジョージア)のときは先に手をしたのはサアカシヴィリだったということもあるものの大したことはできませんでした。クリミア半島併合でも大したことは起きませんでした。

 プーチンとしてもウクライナでも同じようなことになると考えているのかもしれません。

 

 

ウクライナ軍が「ドネツク人民共和国」で約70発の地雷爆破と迫撃砲の発砲を実行?

 2月18日、ロシアのスプートニクが「ウクライナ軍が「ドネツク民共和国」で約70発の地雷爆破と迫撃砲の発射を実行」というタイトルの記事をアップしました。

 ドネツク民共和国側の発表ですからウクライナの挑発行動であることを強調してロシアの介入の正当性を与えるものでしょうし、ロシア側と連携を取ったマスコミ工作の匂いがします。

 

 ロシアが軍事介入に踏み切るかという問題の分析は国際政治学者にまかせるとして、僕が問題にするのは「地雷」と「迫撃砲」です。

 タイトルを見て地雷と迫撃砲にどういう関係があるのか疑問に思いませんでしたか?僕としては「ああ、またか」という感じがしました。

 迫撃砲はロシア語ではминомёт(ミナミョート)です。字義から言えばмина(ミーナ/地雷)をметать(投射)する兵器です。迫撃砲で発射する砲弾はロシア語ではмина(ミーナ)ですが翻訳するなら「地雷」ではなく「迫撃砲弾」と訳さなければなりません。

 原文に当たってはいませんが、「地雷爆破」も変ですね。

「爆破」は何かに仕掛けられた爆発物を爆発させて壊すことですから「地雷爆破」では地雷を爆発処理するような感じです。「迫撃砲弾の爆発・破裂」、もっとこなれた訳なら「迫撃砲弾の弾着」でしょうね。

 誰が翻訳しているのかはわかりませんがロシアの通信社にしては軍事用語の翻訳が雑ですね。

 

 ちなみに迫撃砲の射撃が実際にあったとしても弾痕の形から落ちた弾薬が迫撃砲弾か榴弾砲加農砲の砲弾化の区別はつきます。

ロシアのウクライナ侵攻はあるかな?

 ウクライナ情勢が怪しくなっています。

 オリンピックとロシアの軍事行動という関係は、2008年の北京オリンピック南オセチア紛争の関係を思い起こさせます。

 2008年の南オセチア紛争は、夏の北京オリンピックの開会式の日のグルジアによる南オセチアへの軍事行動に対するロシアによる反撃という形で始まりました。

 グルジアとしてはメドベージェフ大統領が北京オリンピックの開会式で不在、プーチン首相(当時)が休暇中というタイミングを狙って奇襲したのですが、ロシア軍はすぐに反撃、紛争発生の次の日くらいにはアブハジア正面からの侵攻も開始して、5日間で首都トビリシ近くまでロシア軍が侵攻して、戦闘行動は中止しました。

 その後の交渉で南オセチアアブハジアの独立を許すという結果になりました。グルジアNATO加盟を望んでいたのですが、グルジアNATO加盟はなくなりました(NATOとしてもグルジアのような厄介者を加盟させたくはないでしょう。グルジアのためにロシアと戦うなどまっぴらでしょう)。

 ロシアにとっては成功体験ですからウクライナ侵攻もあり得るかもしれません。

 グルジアが先に手を出した南オセチア紛争とは違ってロシアがウクライナに侵攻すればロシアへの風当たりは強くなるでしょうが、それを織り込み済みでもウクライナ侵攻でロシアの利益にかなうと判断すればロシアは侵攻するでしょう。

 グルジアの経験をなぞれば、キエフ近くまで侵攻して停戦、その後の交渉でウクライナNATO加盟を阻止、できればルガンスク、ドネツクの分離等も狙うかもしれません。

 まあ、侵攻しなくてもここまでこじれれば、NATOがロシアと対決する決意をしない限りウクライナNATO加盟はもう無理でしょうから、ロシアの目的は達成されつつあるのかもしれません。

敵基地攻撃能力

北朝鮮のミサイル発射実験の影響と効果

 北朝鮮が盛んにミサイルの発射実験をしてます。日本の軍事アナリストは「なぜこの時期に」という文系的な問いに応えなければならないので大変です。

 兵器開発は、政治的決断によって始まるのですが、予算や資源の配分と研究開発活動によって進捗が左右されるので政治的なイベントに合わせて都合よく進むものではありません。鉄道移動式ICBMのような新兵器を最初に実験するときや、新型SLBMの初発射などはミサイルの改良結果の検証は完全に開発計画に依存するでしょう。「なぜこの時期に」の問いはナンセンスですが、一方で結果的に日本の政治日程に合っていることは興味深いことです。

 北朝鮮のミサイル開発が進捗するにつれ、「敵基地攻撃能力」が取りざたされ、自民党総裁選挙では全候補が「持つべきだ」との趣旨の発言をしました。北朝鮮の発射実験は意図せずして防衛力整備に弾みをつけています。

金正日に特別防衛功労賞を、金正恩にも

 日本は、宇宙開発は平和利用に限るということで偵察衛星は長年持ってこなかったのですが1998年のテポドンの発射を契機に日本独自の情報収集衛星を打ち上げることがあっという間にまとまりました。名前は軍事目的に限らない感を出すため「情報収集」になりましたが、災害被害の掌握などにはアリバイを作る程度にしか使われていない感がありますね。

 棚ぼた式に情報収集衛星保有できることになった防衛省では「金正日に特別防衛功労賞をやらなければならない」という冗談が良く語られました。

 金正恩のミサイル実験を契機に敵基地攻撃能力を持つ武器体形を構築するという話が進めば金正恩にも特別防衛功労賞をやるという冗談が交わされるでしょう(もう交わされているかな?)。

日本の右翼の陰謀はない

 敵基地攻撃能力は徐々に整備されていく趨勢です。昔ならひと悶着起きそうな長射程のミサイルの予算もついています。では、防衛省の内部に敵基地攻撃能力を保有しようと考える勢力が昔からいて虎視眈々と機会を狙っていたのでしょうか。

 答えは簡単で、そんなことを具体化する根性がある人はいなかった、ということに尽きます。テポドンが日本列島を超えて飛んだ時でも、「発射基地攻撃」、「予防攻撃」とかの考え方はタブーでした。今でも政治レベルの流れが変わらなければ論議を呼ぶような問題を提起しようとはしないでしょうね。

 北朝鮮の冒険をチャンスととらえて右翼勢力が陰謀を具体化させようというわけではなく、政治情勢の変化に応じて権益を拡大できるんじゃないかと考えていろいろし始めたというのが本当の所じゃないでしょうか。

AK-47の事例:アフトマットをアブトマットに「直した」人がいた

 僕は「ロシアの軍事用語のカタカナ表記、アブトマット?、アフトマート?、アフタマート?」でソ連・ロシアの兵器の名前などのロシア語がおかしなかなカタカナ表記になっていると書きました。今回はその記事の続編のような記事で、お金を掛けずに良質な情報を手に入れる手段であるWikipediaにひそむ問題点を考えます。

 「ソースはWikipedia」というと馬鹿にされますが、資料源が明記されていればブログやQAサイトなどよりはるかに信頼性があります。とはいうものの、Wikipediaは誰でも編集できるので時間がたつにつれて徐々に正しくなることもありますが、正しい情報が間違った情報に書き変えられることがあります。僕が気が付いた例を挙げます。

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Wikipediaの2021年10月15日以前の「AK-47」の記事のスクリーンショット

 AK-47の記事では、2021年10月15日以前は「アブトマットカラシニコバソーラクスェーミ」と書いてありました。「アブトマットカラシニコバ」までは英語式ローマ字転写の"Avtomat Kalashnikova"をそのまま読んだもので、ロシア語を知っている人は絶対こんな書き方はしません。一方「ソーラクスェーミ」はロシア語で47を意味する"сорок семь/ sorok cem'"をロシア語を学んだ人がカタカナで表記したものです。一人の人間がこういう書き方をするのだろうかと不思議でした。
 そこでどうしてこうなったか調べてみました。Wikipediaでは、誰がどのような編集をしたかの編集履歴を見ることができるので「履歴表示」をたどってみると数十分で理由がわかりました。

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Wikipediaの「AK-47」の記事、「アフトマット」から「アブトマット」に編集

 2021年7月23日に「アトマット」が「アトマット」に変えられていました。「ソーラクスェーミ」に手を付けることができなかったことを考えると変えた人物はロシア語を知らないようです。この人物が「誤りだ」と判断した「アフトマット」という表記を「正しい」と考える「アブトマット」直したのでしょう。つい最近の話ですね。
 曲がりなりにもロシア語の発音に近い「アフトマット」(僕はこうは書きませんが「アフトマット」はあり得る表記です。)が英語式に戻されてしまいました。僕に言わせれば余計なお世話です。
 AKMの部分の「エーケーエム」も怪しいですね。ロシア語を少しでもかじっていれば「アーカーエム」になるはずです。Wikipediaの記事ではこういうことも起きるという話です。 

 WikipediaのAK-47の記事の右上に表示される「履歴表示」を開くと2005年頃の「最古」の記事は転送先として「小銃」を見ろとの記述があるだけでしたが、2005年6月23日に独立した記事になったようです。Wikipediaのアカウントがなくても見ることができますから覧になることをお勧めします。記述がどんどん変化していくのが見て取れます。